第659話 加速するドキドキ

 家に到着した俺と綾奈は、まずリビングに入った。

 その理由はもちろん、母さんへ挨拶と、十五日からのお泊まりの許可を貰うためだ。

 そういや玄関に美奈の靴がなかったけど、出掛けてるのかな?

「ただいま」

「ただいまです良子さん」

「あらおかえり二人とも。早かったわね」

「綾奈を迎えに行ってただけだからね。それより母さん、ちょっとお願いがあるんだけど」

 俺はそう前置きし、母さんに半年記念はお泊まりしていいかを聞いてみた。すると……。

「もうそんなになるのね。いいわよ」

 母さんからあっさりオーケーを貰えた。

「ありがとう母さん」

「ありがとうございます良子さん!」

「いいのよ。それで? どっちの家でお泊まりするのかしら?」

「まだわからないけど、多分、綾奈の家」

 もちろん明奈さんと弘樹さんの許可もいるわけだけど。

「そうなのね。あまり迷惑かけたらダメよ?」

「わかってるって」

 それから二、三会話のキャッチボールを続けて、二人分のココアを作って俺の部屋へ。

 う~ん……やっぱりいつまでもこれってのはな……。

 そんなことを思いながら階段を上り、綾奈が部屋の扉を開けてくれたので、お礼を言って中に入る。

 ココアが入ったマグカップをローテーブルに置くと、後ろから扉の閉まる音が聞こえた。

 俺の部屋に綾奈と二人きり……すごくドキドキしてきた。

 後ろを向き、綾奈を見ると、綾奈は頬を赤く染め、上目遣いでもじもじしながら俺を見ている。可愛すぎてさらにドキドキが加速する。

 俺の頬も熱を帯びてながら、ゆっくりと両手を広げる。

「っ!」

 綾奈は一瞬だけ目を見開き、だけど次の瞬間には微笑んでいて、ゆっくりと歩き出していた。

 そしてすぐに綾奈は俺の胸に顔を埋め、手を俺の背中に回してきたので、俺もゆっくりと綾奈を抱きしめる。

 もう数え切れないほど抱きしめてきたのに、どうしてか今まで以上に緊張する。

 嗅ぎ慣れたはずの綾奈のいい匂いが、気持ちを昂らせる。

 最初は優しく抱きしめていたのに、今はけっこう力を入れてしまっているが、綾奈は痛いと言ってこない。

 それどころか、綾奈もいつも以上に力を込めて俺を抱きしめてくる。もちろん痛くはない。ただただたまらなく嬉しくなる。

「ましゃと……すっごくドキドキしてる」

「うん……自分でも、いつも以上にドキドキしてるなって自覚はあるよ」

 綾奈は俺の心音を直に聞いているから、俺がどれだけ緊張しているかわかっているはずだ。

「私も、すっごくドキドキしてる」

「そうなの?」

「うん…………触って、みる?」

「っ!」

 綾奈がとんでもないことを言ってきて、心臓が痛いくらい跳ねた。

 な、何を言ってるんだ綾奈は!? こ、こんな誘うようなことを言って……。

 甘えモードマックスになっている時は、よく行動が大胆になることが多いけど、今回はまさか言葉まで大胆になるとは……。

 今は甘えモードマックスになっているかわからないけど、綾奈もすごくイチャつきたいと思っているから、言葉の威力を意図的かどうかはわからないけど上げているのかもしれない。

 そして、綾奈から少し遠回しで『胸を触っていい』と言われた俺は───

「え、遠慮します……」

 はい、ひよりました。

 いやだってさぁ……最初はキスからだと思ったんだよ。俺たちの流れ的にいつもそうだったから。

 だけどその工程……って言っていいのかな? とにかくそれをすっ飛ばしていきなり胸を触るって……え、そんなもんなの?

「……触らないんだ」

 綾奈もなんで少し残念がってる風な声を出すんだ? ま、まさか……綾奈は触ってほ───

 いや、やめておこう。これ以上は俺の頭がショートする。

 そして理性もなくなりそうだから、やっぱりいきなりソレはなしだ。

「その……やっぱり最初はき、キスかなって……」

 俺がそう言うと、綾奈の肩がピクッて少しだけ跳ねた。

 数秒後、俺の胸から顔を離した綾奈の顔は耳まで真っ赤になっていた。

「わ、私も……ましゃととちゅう……したい。いっぱい……したい」

 そう言うと、綾奈はゆっくりと目を閉じた。

 綾奈、絶対に甘えモードに入ってる。自分からしてこないってことは、マックスにはなってないっぽいけど、それも時間の問題か。

 俺は唾をゴクリと飲み込み、緊張で震える手で綾奈の頬に触れた。

「あ……」

 綾奈から甘い声がもれ、鼓動がまた早くなる。

 この時、俺は綾奈の唇ではなく、俺の手で若干隠れた綾奈の耳を見ていた。

 綾奈の耳……特に耳たぶはふにふにしていそうで触ると気持ちいいんだろうな~とたまに思うんだよな。

 これからも綾奈の耳に触る機会は絶対にあるけど、今触ってみたいという気持ちがちょっと強くなり、俺は綾奈の頬に当てている手を移動させ、綾奈の耳たぶに触れた。

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