第658話 ドキドキの待ち合わせ

 T字路に到着したけど、綾奈はまだ来てなかった。

 いつもの登校時の待ち合わせでは俺の方が遅いんだけど、今日は早歩きで来たから、俺が早く着いたみたいだ。

 もう五分もしないうちに綾奈も来ると思うから、心を落ち着けさせながら待っていよう。

 俺は瞑目し、呼吸をいつもより大きくしながら綾奈を待つ。

 そして三分ほど経過して、近くで俺を呼ぶ可愛らしい声が聞こえた。

「お、おまたせ真人」

 綾奈の声が聞こえてドキッとする。三分間精神集中したのに一瞬で崩された。

「俺も今来たところだか……ら」

 綾奈を見て俺は息を呑んだ。

 今日、めっちゃガーリーな服を着てる。

 上は白色のニット、そして下はピンクのミニ丈のプリーツスカートだ。

 最近の綾奈の私服は、パンツスタイルかロングスカートが主だったから、ミニスカートは本当に久しぶりだ。

 胸元にある、俺が持っているのと二つで一つのペンダントもキラリと光っている。

「真人?」

 綾奈に呼ばれてハッとする。

 やっべ。めっちゃ見惚れてしまった。今日のコーデの感想を言わないと!

「ご、ごめん。その、いつも可愛いのに、今日は特段可愛く見えて……見惚れてた」

「っ!」

 俺が感想を伝えると、綾奈の頬が一瞬で赤くなった。

 そして俺から少し目を逸らし、もにょもにょとだけど感想を言ってくれた。

「ま、ましゃともその……かっこいいよ。メガネ、久しぶり」

「あ、ありがとう……。ま、まぁ服は普段からあんまり変わらないけどね」

 俺は「あはは……」と笑う。

 綾奈の「かっこいい」という言葉が、いつも以上に嬉しくて、くすぐったい。

 いつもはドキドキするだけなのに、なんだろうなこの高揚感というか、落ち着かなさは。

 テンションがおかしな方に上がっている俺に、綾奈はさらに追撃する。

「ましゃとはかっこいいよ。メガネをしていなくても、ね」

「っ!!」

 俺の心臓が強く、早鐘を打ち、気分がさらに高揚する。

 なんとか平静を装っているが、俺は心の中で悶絶していた。

 うわぁ……! 俺のお嫁さん、やっぱり最高すぎる!

 天使か!? 俺のお嫁さんは天使なのか!?

 とまぁ、自分でもよくわからないことを考えているんだけど、天使って表現は間違ってないと思う。

 だって、この微笑みよう……間違いなく天使だよ。

「と、とにかく行こうか」

 ここでお互い感想や可愛いかっこいいと言い合っていてもイチャイチャは出来ないし、イチャイチャしたいという気持ちをさらに強くさせるだけなので、早めに俺の家に行こうと促す。

「うん」

 綾奈が手を出してきたので、俺はその手を握ろうとして、途中で少しだけ止まってから手を繋いだ。

「な、なんか緊張しちゃうな」

 なんとなくだけど、初心に帰った気持ちになる。

「う、うん。付き合ってもうすぐ半年で、何度も手を繋いできたのにね」

 忘れてたわけじゃないけど、俺たちが付き合って半年の記念日は九日後の四月十六日。しかもこの日は日曜日だ!

 当然その日は綾奈と一緒に過ごすつもりだ。プランはまぁ……おいおい考えていこう。

「半年記念は、前日からどっちかの家でお泊まりしたいな」

「じ、じゃあ、お母さんや良子さんたちにお願いしようね」

「そうだな。うちに着いたら母さんに聞いてみよう」

「うん!」

 綾奈は満面の笑みを見せてくれて、それを見た俺はまたドキッとする。

 綾奈と合流してからまだ数分だというのに、既に相当ドキドキさせられている。

 こんなにドキドキしてしまうと、早くイチャイチャしたいという気持ちが強く出てしまう。

「じゃあ行こうか綾奈」

「うん」

 俺はイチャイチャしたい気持ちを抑えながら、ゆっくりと綾奈の歩くペースに合わせて移動を開始した。

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