第655話 ましゃととイチャイチャしたい綾奈
「うぅ~……」
朝食を食べ終えた私は、自分の部屋でカーペットが敷かれた床に正座し、ローテーブルに置かれたスマホをじっと見ていた。
私は悩んでいた。旦那様に電話をかけるかどうかで。
私の心は、あることがしたいと必死に訴えかけてきている。
「ましゃとと……イチャイチャしたいよぉ」
今朝……正確に言うと昨日からだけど、昨日に比べて真人とイチャイチャしたいって気持ちが倍以上も強くなっていた。
春休みに入ってからは真人とほぼ毎日顔を合わせていたけど、キスをしたのは早朝ランニングの時だけ。
日中は乃愛ちゃんとせとかちゃん、舞依ちゃんと会ったり、雛さんの見送りなんかで一緒だったけど、その時にイチャイチャなんて出来ないし、真人と合唱部の問題の時は二人きりの時もあったけど、とてもそんな雰囲気にはなれなかったし。
そういうのがあって、今の私は本当に、とっても真人とイチャイチャしたい!
でも、私からこんなことを言うのって、すごくはしたないことなんじゃ……。
会う前からこんなにイチャイチャしたいって気持ちが強いことがなかったから、それだけの目的で真人に会うのって、い……いやらしいの、かな?
『会ったらいいじゃん』
悩んだ末に、私はちぃちゃんに電話したんだけど即答されてしまった。
「で、でも、私が電話でイチャイチャしたいって言ったら、真人も困ってしまうんじゃ……」
私は少しだけ言葉を選んでしまった。
困るのも、もちろんあるかもしれないけど、いきなり言ったら、さすがの真人もちょっと引いちゃうんじゃないかなって思っちゃった。
そして大好きで愛してる旦那様に引かれちゃったら、私は絶対に落ち込んじゃう……。
『困るどころか、むしろ逆なんじゃない?』
「え? 逆って?」
ど、どういうこと?
『考えてもみなって。彼女……あんたたちの場合は婚約者か。婚約者からイチャイチャしたいって言われて嬉しくない男なんていないよ』
「そ、そうかな?」
『絶対そうだって。しかも綾奈のようなめっちゃ可愛い子から言われたら、真人だってシッポ振ってやって来るに決まってるって』
「し、尻尾を振って……」
つ、つまり、真人も喜んで私とイチャイチャしてくれるってこと、だよね?
『てゆーか、綾奈からそういう展開に持っていったこともあるんでしょ? その時の真人の顔を思い出してみなよ』
「う、うん……」
私はちぃちゃんに言われた通りに思い出してみる。
今年に入ってからだと……真人のお誕生日の夜、私から真人の手を自分の胸に……。
「っ!」
思い出した瞬間、私の顔が一瞬で熱くなった。
『ん、どしたん?』
「な、なんでもないよ……」
咳払いをしてから、さらに思い出していく。
冬休み最後の日、真人の部屋で私が真人を押し倒し……。
「っ!」
わ、私って、けっこう色々やっちゃってる!? 今年を振り返ってまだ一週間くらいなのに、二つもあるなんて……。
それからも色々と思い出して、その度に顔が熱くなってしまったけど、その時の真人の顔は決まって───
「びっくりして、それからちょっと困った顔をしてた」
『あんたどんなことをしてきたの!?』
「で、でも! 困ってたのも一瞬で、その後は真人もいっぱいキスをしてくれて……あぅ~」
い、いけない。どうやっても顔が熱くなってドキドキしちゃう。
『でしょ? だから一度真人に電話してみなって。びっくりはするかもだけど、絶対に嬉しいはずだからさ』
た、確かに今までの経験からしたら、真人は私を拒んだりはしないで、すぐに私と同じくらいの熱量を返してくれていた。
ちぃちゃんの言ったように、考えすぎたかもしれない。
「わ、わかった。ありがとうちぃちゃん。朝からこんな話を聞いてもらって」
『いいって、親友じゃん。それよりも綾奈、頑張んなよ!』
私はもう一度お礼を言ってから電話を切った。
そして間を開けずに真人に電話をかけた。
ここで時間をおいてしまったら、またあれこれ考えてしまいそうだったから……それだとちぃちゃんに話を聞いてもらったのが無意味になってしまう。
「あれ? 話し中だ……」
電話をかけたけど繋がらなかった。どうやら他の誰かとお話をしているみたい。
誰だろう? 一哉君か健太郎君かな? それとも杏子さんやマコちゃん……もしかして雛さん!?
って、こんな朝から雛さんが真人に電話をかけるわけないよね。雛さんとほとんど電話したことないって真人も言っていたし。
私がスマホをローテーブルに置いてから二分後、着信が入った。
かけてきているのは……真人だ!
私は心臓がドキドキと高鳴っているのを自覚しながら、すぐに通話ボタンを押した。
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