第643話 晴れない気持ち

 翌日の四月四日。部活を辞めさせられた俺は自室のベッドに座っていた。

 もう部活が始まってる時間だよな。

 あれからちゃんと部活になったんだろうか?

 みんな……特に部長は俺と、俺に味方する一哉が退部していっそう部活に力を入れていそう。

 他のみんなも俺を……浮気した(してないけど)俺をゴミを見るような目で見ていたし、そんな中、下手に俺のことなんか言ったら火に油を注いでしまうのは目に見えている。

 坂井先生は、あれからどうしたんだろう? 気になる。

 というか、新学期が始まったら同学年の部員とは嫌でも顔を合わす機会が訪れる。同じクラスにでもなってしまったら、それこそ針のむしろだ。

 俺も学校では色々注目を集めているから、このデマはきっとすぐに広がる。

 部長がや先生がもし、これ以上広まらないように、みんなにかん口令を出していたら抑止力にはなるだろうけど、この場合は坂井先生よりも部長の方が強い。

 俺が引き下がったんだから、他の部員にも他言無用を強いてくれていたらと願うばかりだ。

 もしも学校が始まって、この噂が学校中に広まっていれば……きっと俺は学校には行かなくなる。

 ……部長は良くも悪くも真面目な人だ。口止めをしていることを願うしかない。

「真人、大丈夫?」

 隣にいる綾奈が俺を心配そうに俺を見上げて頭を撫でてくる。

 部活が急きょ休みになった綾奈は、こんな朝の早い時間にうちに来てくれていた。もちろん、俺を案じてのことだ。

 ちなみに今日も早朝のランニングを行った。

 じっとしていると嫌な考えが脳内を支配しそうだったから、そんな嫌な考えを吹き飛ばそうとがむしゃらに走った。

 結果、走っている時は気は紛れたけど、フォームもペースもいつもとは違っていたから余計に疲れる結果となってしまったし、一緒に走ってくれた綾奈を困らせて、そして心配させてしまったけど。

「……あんまり大丈夫じゃないかな。新学期のことを考えると不安で……」

 俺はさっき考えたことを綾奈に話した。

 俺が話しているあいだ、綾奈は撫でるのをやめて俺の手を握り、俺の顔をじっと見て聞いてくれていた。

 そして俺が話終わると、悲しい表情で少し俯き、握っている手の力を少し強めた。

「こんな時、同じ学校ならって思うよ。そうだったら真人を守れるのに……」

「その気持ちだけですごく嬉しいよ。ありがとう綾奈」

「うん……」

 綾奈の表情が晴れない。

 くそっ! しっかりしないと……。

「みんなからはメッセージ来てない?」

「今は来てないな」

 昨夜、一哉からメッセージが来ていて、内容は『グループのみんなに話してもいいか?』だった。

 どうせ新学期が始まったらバレるかもしれないと思った俺はそれを承諾。程なくしてグループトークに俺が部活を辞めた経緯を一哉が説明してくれた。

 この時、初めて俺が部活を辞めた理由を知った健太郎、香織さん、茜、杏子姉ぇ、雛先輩はめちゃくちゃ 心配してくれて、そしてめちゃくちゃ怒ってくれた。

 そりゃそうだ。なんたって部長の勘違いと早とちりなんだから。

 雛先輩なんて、俺が心配だからってこっちに帰ってくるとまで言ったくらいだ。冗談かもと思ったけど、お礼と共に断った。

 新生活がスタートしたばかりなんだから、今は自分のことだけを考えてほしい。

 杏子姉ぇも怒っていて、『私がガツンと言おうか!?』とか、今朝も『マサが心配だからそっちに行く!』とか言ってくれた。

 ガツンと言うにしても、この姉妹の秘密を口にしないことには平行線のままな気がするし、今日は綾奈が来てくれたから、お礼を言って両方とも断った。

 普段俺にちょっかいばかりかけてくるのに、俺のことめっちゃ好きじゃん杏子姉ぇ。

 それから俺は、麻里姉ぇの昨日の言葉を思い出していた。


『話をつけに行くわ』


 もしかしてだけど、麻里姉ぇって風見高校に行ってるんじゃないよな?

 でも、アレがマジだったら、それしか考えられない……!

「綾奈、麻里姉ぇって今日はどこに───」

「大丈夫、大丈夫だよ真人。きっと、お姉ちゃんが何とかしてくれるよ」

 綾奈は俺の手を握っている手の力をさらに少しだけ強めた。

 それと同時に、俺の予想は確信へと変わった。

 綾奈は、俺をここから出さないつもりだ。

 今すぐ飛び出して学校に行きたい気持ちはあるけど……こうなると無理だ。

 綾奈の手を無理やり離すなんてこと、俺には出来ない。

 麻里姉ぇ……。

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