第635話 麻里奈は義弟を労いたい
「づ、づがれだ……腹減っだ……」
午後一時半。俺は家の最寄り駅まで帰ってきた。
休憩もあったけど、それでも三時間以上歌いっぱなしはさすがにキツい。
それだけ坂井先生の指導にも熱があったってことなんだけど……今年はマジで全国狙ってるな。
練習前にああ言った手前、俺も頑張らないと!
……と、気合いを入れるのはいいけどまずはお昼ご飯にありつかないと。空腹がピークに達している。
明後日の月曜日からの練習もこれくらいになると考えると……何かつまめる食べ物を持っていった方が良さそうだな。
駅構内から出て、家に向かおうとしたら、駐車場に見覚えのある赤い車を見つけ、その車から私服姿の麻里姉ぇが出てきた。スキニーパンツを穿いていて、麻里姉ぇの長く細い美脚を強調させる。
「真人」
「麻里姉ぇ!」
あれ? でもなんで麻里姉ぇがここに? ドゥー・ボヌールが近くにあるのに……。
「もしかして、今まで部活だったのかしら?」
「うん」
ここで俺のお腹の虫が鳴った。
義理の姉さんに聞かれるなんて……恥ずかしい。
「まったく……莉子も指導に熱が入るのもわかるけど、もうちょっと教え子のことを考えなさいよね」
麻里姉ぇがここにいない坂井先生に文句を言っている。
俺も……まぁ、もう少し早めに終わってくれても良かったな~って思わないでもない。
麻里姉ぇは坂井先生へのため息をついて、俺に近づいた。
「ま、麻里姉ぇ?」
麻里姉ぇは俺の正面に立った。
これは
「ま、麻里姉ぇ!? な、何を……こほ!」
驚いて大きな声を出してしまい、喉が枯れていた俺は思わず咳き込んでしまった。
心配そうに俺の喉を見る麻里姉ぇ……すごくドキドキする。
「喉も枯れちゃってるわね」
「ひ、久しぶりにがっつり歌ったからね……」
「真人はいい声してるのだから、帰ったらそのまま喉を放置しないで、ちゃんとケアしなさいね」
「わ、わかった……」
いつまで喉に触れるのかと思っていたら、麻里姉ぇは手を離してパンツのポケットから
「はいこれ。のど飴よ」
「え? くれるの?」
というかなぜポケットからのど飴が?
「ええ。帰るまでに
「あ、ありがとう麻里姉ぇ」
俺は麻里姉ぇの手のひらに乗った飴を受け取ると、麻里姉ぇはその手を上に挙げ、俺の頭の上に置き、優しく撫ではじめた。
「ま、麻里姉ぇ! な、何してるの!?」
「部活をいっぱい頑張った真人を、お義姉ちゃんが労ってるのよ」
「う、嬉しいけどさ、ここ……外だし」
ま、麻里姉ぇが俺をすごく甘やかしてくる!
こんな超絶美人な人に頭を撫でられて嬉しくならない男はいないけど……出来れば家の中でしてほしい。近くにいる人がみんなこっち見てるし。
「あ、そうね。ごめんね真人」
麻里姉ぇはパッと手を離した。
「いや、その……謝らないでよ。嬉しかったし」
「そう? ならまた今度撫でてあげるわ」
「お、お手柔らかに……」
いつも思うけど、俺って麻里姉ぇからマジで溺愛されているよな。もちろん義姉弟として。
「それはそうと、早く何か食べたいでしょ? 送っていくから乗って」
「え!?」
麻里姉ぇの車に乗る? マジで!?
「どうかした?」
「いや……乗っていいの?」
麻里姉ぇの車ってカッコいいフォルムで中も綺麗だから、一度乗ってみたいとは思っていたけど、思わぬ場面で巡ってきたな。
「
「う、うん。ありがとう麻里姉ぇ!」
俺は麻里姉ぇの車に乗せてもらい、そのまま家まで送ってもらった。
中もとても綺麗で、俺も将来はこんな車に乗りたいなと思った。
「…………中筋君、最っ低ね」
真人と麻里奈から離れた場所……声が届かない距離で、目線の高さまで掲げていたスマホを下ろし、三つ編みメガネの少女は低くそう呟いた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます