第632話 香織は何部?
「あれ? 真人君?」
風見高校に到着し、下駄箱で上履きに履き替えていると、聞き馴染みのある女子の声が聞こえた。
「あ、香織さんおはよう」
声がした方を見ると、赤いトートバッグを持った体操着姿の香織さんがいた。香織さんも部活か。
「おはよう。昨日ぶりだね。真人君も部活?」
「うん」
「あれ? でも真人君って臨時の合唱部員だよね?」
「そうだよ」
部活の話はしてないのによく知ってるなぁ……と思ったけど、文化祭で合唱部員として体育館のステージに登壇したから、香織さんはそれを覚えていたんだろうな。
「臨時部員も部活に出るって、何かあるの?」
「入学式で校歌を歌うから、それで集められてるんだよ。一哉もね」
「なるほど」
……あれ? 香織さんも部活だと思うけど、香織さんって何部なんだ?
高崎高校との合同練習の昼休みに、体操着姿の香織さんとバッタリ出くわしたことがあったけど、あの時も何部かは聞いてなかったし、香織さんの告白以降、たまに昼を一緒に食べることもあったけど、部活の話はしたことがない。もっぱら世間話や綾奈や千佳さんの話題、次の授業のことだったからな……。
「どしたの真人君?」
「えっ!?」
「いや、なんかボーッとしちゃって……」
「えっと……」
香織さんは俺の部活を知ってるのに、俺が知らないって……かなり失礼だよな。
どうする? ここは正直に聞くか? いやでも聞くと香織さんは機嫌を損ねてしまうかもだし、いつもみたいに世間話に徹するか、ここで会話を切り上げて、音楽室に向かうのも手だ。
「あのさ、香織さん」
「ん?」
「今さらこんなこと聞くのは失礼ってわかってるんだけど……香織さんって、何部なの?」
だけど、俺は正直に聞いた。
ここで話を切り上げても、いずれ同じ場面に遭遇するかもだし、『友達が所属している部活動』は、ある程度仲が良かったら知っていて当然の内容だ。
俺は香織さんとは『ある程度』以上の仲の友達だと思ってるし、知らないままの方が香織さんに失礼になってしまう。
今、こうして聞けるチャンスが巡ってきたのに、聞かずに知らないままにして、あとから余計に香織さんを不機嫌にさせたり悲しませたりしてしまうのなら、逃げずに今聞く!
「え、私の入ってる部活、知らなかったの!?」
「う、うん……ごめん」
「あはは。謝るほどのことじゃないって」
俺の予想とは真逆で、香織さんは笑っていた。
「でもそっか。思い返してみたら、お互いの部員の話なんてしてないもんね」
そう言いながら、香織さんはトートバッグに手を入れ、黒の……何かポーチみたいなのを取り出した。
そしてそのポーチのファスナーをジーっという音と共に開け、その中身を見せながら言った。
「私は卓球部だよ」
見ると、確かに卓球のラケットが入っていた。
「卓球部だったんだ!」
なんか、以前の大人しい感じの香織さんからはあまり想像がつかない。卓球って激しいスポーツだし。
「あ、今意外って思った?」
「え!?」
どうやら見抜かれていたみたいだ。
「私、これでもけっこうやれる方だからね」
「そ、そうなんだ……」
「今度、みんなで卓球が出来る場所に行ってみる?」
「あ、そんな場所があるんだ」
「うん。高崎の駅から徒歩十五分くらいの所に、ゲーセンとかと一緒になった複合施設があるよ」
あ、確かにあったかも。高崎高校とは逆方向だからすっかり忘れてた。
「そうだね。是非行ってみたいかも」
確か、卓球以外のスポーツも出来て、ゲーセンやカラオケもあったはずだ。
「じゃあまたグループメッセでみんなと一緒に予定決めようね」
「うん!」
いつになるかはまだわからないけど、今から行くのが楽しみになってきたな。
仮の約束をして、香織さんと別れて音楽室へと向かった。
(知らないなら知らないでよかったはずなのに……そういうカッコよくて誠実なとこなんだよね。真人君のズルいところって)
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