第628話 夫婦の進路について

「そういえば真人君、綾奈ちゃん」

 それから十分ほどが経過し、奏恵叔母さんが俺と綾奈を呼んだ。叔母さんが俺たち二人への用ってなんだ?

「はい」

「なんですか奏恵叔母……お姉さん」

 危ない! 普通に『叔母さん』って呼ぶところだった。『お姉さん』って言わないと怒るからなぁ。

「二人はもう高校二年になるけど、将来のことは決めてあるの?」

「え? それは綾奈と結婚───」

「そうじゃなくて、進路よ」

 あ、そっちですか。

 そうだよな。綾奈と結婚するのは決まってるしみんな知ってるからわざわざ聞く必要ないもんな。

「進路……ですか?」

「そう。進学か就職か……なにかなりたいものはあるの?」

 進路の話……今まで両親は何も言ってこなかったけど、やっぱり気になるみたいで父さんも母さんもじっと俺たちを見てくる。

「ん~……俺は進学を考えてます」

「私も、そうですね」

 お、綾奈も進学なんだ。そういった話は綾奈ともしてこなかったから今知った。

「真人も綾奈ちゃんも進学なのね。どの学校に行くかは───」

「そこはまだ決めてない」

 どういう仕事をしたいかってのも決めてないから、大学か専門学校かも決めてない。

「私も決めてないです。でも……」

『でも』ということは……綾奈はぼんやりとでも将来なりたいものを決めているのか?

「でも?」

「真人さえよければ、大学か専門学校を卒業してから、一緒になにかしたいなーとは……思ってたりします」

「綾奈……」

 綾奈の言葉を聞いて、俺はホワイトデーの時に茉子のお母さんの茉里さんに言われたセリフを思い出していた。


『真人君の将来は洋菓子職人さんかしら?』


 この言葉を聞いて、俺も綾奈と一緒にやれたらいいなと思った。

 綾奈も漠然とはいえ、俺と一緒のことを考えてくれていたと知って嬉しくなった。

「お店経営とか、そんな感じ?」

「配信や動画投稿でも人気が出そうじゃない? アヤちゃんすごく可愛いから、映るだけでバズりそう」

「き、杏子さん……それは言いすぎなんじゃ」

「いや、杏子姉ぇの言う通りだと思う」

「ま、真人!?」

「綾奈の可愛さは俺が一番よくわかってる。なにも面白いこととか言わなくても、綾奈の可愛さが話題になって、あっという間に動画が拡散されて登録者数も大変なことになるだろうね」

 ただ、綾奈の可愛さが全世界の人に知れ渡ったら、綾奈を狙う人が絶対に増える。場合によってはストーカーになるヤツもいるかもしれないから、もしも動画投稿をするのなら、そこら辺もしっかりしとかないとな。

「あぅ~……。と、とにかく、真人とは離れたくないので、これが理想だなと思ったわけなんです」

「俺も、綾奈と一緒になにか出来たらって思ったことあるから、綾奈も同じ気持ちなの、すごく嬉しいよ」

「えへへ……うん!」

 俺たちはみんなに見えないテーブルの下辺りで手を繋ぎ、微笑みあった。

 将来のビジョン……まだぼんやりとしか見えてないけど、それでも茉里さんに言われた時よりかは、微かにだけど輪郭くらいは描けてきたかもしれない。

「綾奈ちゃんも卒業後は杏子と同じ道へ……って誘おうとしたけど、やっぱりダメみたいね」

「「え!?」」

 奏恵叔母さん……そんなこと考えてたの!?

 綾奈は演技は未知数だけど、歌はマジで上手いから、歌手でならきっと成功すると思うけど、でもやっぱり綾奈には俺と一緒にいてもらいたい。

「ダメダメお母さん。アヤちゃんはマサのそばからテコでも動かないからね。それに、大好きなアヤちゃんの幸せを奪うマネは、私はしたくない」

「杏子さん……ありがとう」

 杏子姉ぇは綾奈の幸せがどんなのかわかってたのかな?

 綾奈から聞いた? それともこれまでの綾奈を見て確信したのか……いずれにしても予想外の方向から飛んできた綾奈と離れ離れになるかもしれない危機は去った。ありがとう杏子姉ぇ。

「あ、二人が本当にお店出したら宣伝は任せて!」

『人気女優 氷見杏子』のネームブランドで、あっという間に話題になるのは間違いないな。

 本当に頼むとしたら、経営に慣れた頃か、軌道に乗った頃だな。

「その時が来るのかはわからないけど、お願いするよ杏子姉ぇ」

「私からもお願いします」

 そんな未来の約束をしながら、楽しい時間は過ぎていった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る