第625話 外食の約束

「杏子姉ぇから……って、まさか!」

 え、!?

 以前、杏子姉ぇ家族がうちにやってきた時、綾奈も交えて一緒に食事にでも行こうという約束をし、二、三日前に、それが今日に決まったのを父さんから聞いた。

 杏子姉ぇと別れる時も、『またあとでね』と言われていたが、スマホで時間を確認すると、まだ夕方の四時だ。夕食にしてはいささか早い時間……だよな。

「杏子姉ぇから電話がかかってきたということは、もうそろそろ出発なのか?」

「わかんないけど、とりあえず出たほうがよくないかな?」

「だね」

 ここで綾奈と議論をしていても解決にはならないし、杏子姉ぇも待たせることになってしまう。多分、杏子姉ぇは俺が出るまでひたすらかけ続けると思うから、早く出た方がいいと思いながら、俺は通話ボタンをタップし、続けてスピーカーモードにした。

『あ、やっと出た! もしもしマサ?』

「う、うん。待たせてごめん杏子姉ぇ」

『いいよいいよ。アヤちゃんとイチャイチャしてたんだろうし、こっちも水をさしちゃってごめんね』

 杏子姉ぇが珍しく謝ってきた。

 というか杏子姉ぇって、俺と綾奈が二人きりイコールイチャイチャしかしてないような認識じゃないのか?

 それが多いというのは認めるけど、絶対ではない。今だってまだイチャイチャはしてないから!

「イチャイチャしてないから!」

「そ、そうです杏子さん! 私たちは、まだ……」

『まだ? ということは、今からするつもりだったの?』

 綾奈さん、久しぶりの自爆ですね。

 杏子姉ぇも聡いからそれだけでわかってしまうんだな。

「あぅ~……」

『あっはは、アヤちゃんはわかりやすいな~』

 なんか話がどんどん逸れている感じがするけど、夕食に出かける時間になったから俺に電話をかけたんじゃないのか?

「というか杏子姉ぇ、もう出かけるの?」

『あ、そうだった。もうちょっとでマサの家に行くから、準備しといてって言おうとしてたんだった』

「もうちょっとで!?」

 マジか。ということは、今からうちに向かわないと、杏子姉ぇたち家族の方が早く到着することになるんじゃないか?

 そうだとしたら、時間があるからって余裕ぶっこいてイチャイチャしている場合じゃない。

『そだよ~。二人は今家?』

「家だよ……綾奈のだけど」

『あ、そうなんだ。……ならアヤちゃんの家まで迎えに行こうかってお父さんが言ってるけど』

 それは正直ありがたい。けど───

「さすがにそこまで手間かけさせるわけにはいかないから、今から二人で俺の家に向かうよ」

 俺たち二人の都合でみんなを振り回すわけにはいかない。イチャイチャしている時間がないのは悔やまれるが、またいつでも出来ると今回はそう思うしかない。

『ん、わかった~。……ちょっとくらい遅くなっても大丈夫ってお母さんが言ってるよ』

 何言ってんの奏恵叔母さん!?

「だ、大丈夫だから!」

「そ、そうです! い、今から出ますから!」

『そう? じゃあうちもそろそろ出るみたいだから、またあとでね~』

「うん」

「はい」

 俺たちが返事をすると、杏子姉ぇはすぐに電話を切った。

 あ、どこに行くのか聞きそびれたな。まぁ、それはあとから聞けばいいか。

「よし、じゃあちょっと急いでうちに向かおう」

「うん!」

 俺たちは短いキスをし、明奈さんが持ってきてくれたココアを飲み干し、リビングにいる明奈さんにお礼を言ってから、ちょっと早歩きでうちに向かった。

 ああ……、綾奈ともっとイチャイチャしたかったなぁ。

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