第619話 一人一人、全員に声をかける雛
「茜ちゃん、山根君と仲良くね~」
そう言って、雛先輩は茜の前に両手を出した。
「はい! 雛先輩」
そして茜も両手を出し、雛先輩とがっちり握手を交わした。
茜の手を離すと、スス~っと横に移動して、一哉の前に立った。
もしかして雛先輩、俺たち一人一人に声をかけてくれるのか!?
しかも順番的に俺が最後だ!
え? 俺が最後でいいの? 香織さんか茉子と場所変わった方がよくない?
雛先輩がこっちに来るまで少し時間があるから、ちょっと聞いてみよう。
「山根君も茜ちゃんと仲良くね~。それから、これからも健ちゃんと仲良くしてね~」
「もちろんですよ雛先輩。向こうでも頑張ってください!」
一哉との挨拶も終わり、雛先輩、今度は杏子姉ぇの正面に移動した。
「か、香織さん。茉子」
「どうしたの真人君?」
「真人お兄ちゃん?」
「杏子ちゃん。短い間だったけど、仲良くしてくれてありがとうね~。芸能界に復帰したら、いっぱい応援するわね~」
「ありがとうございますひーちゃん先輩! こっち帰ってきたら絶対に遊んでくださいよね」
「俺と場所変わった方がよくない?」
「いいよいいよ。真人君はそのままそこにいて」
「うん。やっぱり最後は真人お兄ちゃんじゃないと」
「えぇ……」
マジか。良かれと思って聞いたら、まさか二人とも拒否するとは……。
雛先輩……やっぱりまだ、そういうことなのかな?
「美奈ちゃんもありがとうね~。みんなと、お兄ちゃんと仲良くね~」
「はい! 雛さん、私ともまた遊んでくださいね!」
「もちろんよ~」
「あ、綾奈……」
この状況……綾奈的にはオッケーなのか?
雛先輩が俺にだけ何か特別なことをしてくるとは考えにくいけど、お嫁さんとしては複雑なんじゃ……。
「うぅ~……複雑だけど、雛さんはもうすぐ遠くに行っちゃうから……さ、最後はやっぱり真人がいいと……思うよ」
「わ、わかったよ……」
綾奈さんや、めちゃくちゃ苦渋の決断じゃないですか。
香織さんも茉子もそう言ったからって、別に綾奈もオッケーしなくても……。言いにくい空気なのはわかるけどさ。
とにかく、こうなった以上は俺からはもう何も言うことは出来ない。
雛先輩が俺にまだそういう感情を抱いていたとしても、みんなと同じように普通に握手するだけだろう。
マイペースでたまに大胆な行動をとることもあるけど、構内には人がけっこういるし、みんなが、何より俺のお嫁さんが隣にいるのに、俺にだけ違うことをするってのは、やっぱり考えすぎだよな。
うん、そういう風に思うことにしよう。
雛先輩を見ると、今は健太郎の前に立っていた。
ひ、雛さん……真人にも握手だけだよね!?
で、でも雛さんがもしまだ真人を好きなら……。
さっきも言ったけど複雑だよぉ……。
雛さんはこれから一人暮らしをスタートさせるから、きっと不安もある、よね?
不安な時は、楽しいことを思い出せば不安も少しは安らぐから…………。
うぅ~……雛さんが何をするかわからないけど、真人のお嫁さんとして、もっと余裕を持たないと!
雛さんが何をしても、真人は私から離れないもん!
ち、ちょっとだけ……ちょっとだけなら……あぅ~……ふむむむぅ~……。
私の葛藤はまだまだ続く。
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