第618話 雛を見送るために駅に集合

 三月三十一日の金曜日のお昼。

 俺は初詣で行動を共にした全員、そして杏子姉ぇと風見高校の最寄り駅に来ていた。

 その理由は───

「雛さん……絶対、絶対にまた遊びましょうね!」

「ええ、もちろんよマコちゃん」

 ───雛先輩がいよいよ専門学校進学のために、この地元を離れるので、こうしてみんなで見送りに来たのだ。

 その雛先輩は今、茉子と熱い抱擁を交わしている。

 あえて雰囲気を壊すようなことを言えば、茉子の顔が雛先輩の立派な果実にすっぽりと埋まっている。

 それにしても、茉子は本当に雛先輩に懐いてるよな。まるで本当のお姉さんのような慕いっぷりだ。

「姉さん、忘れ物はないよね? 向こうじゃ、僕も父さん母さんもいないから……」

「大丈夫よ健ちゃん~、心配性なんだから~」

 健太郎は過保護なまでに雛先輩を心配している。家ではいつもああなのかな?

 まぁ、普段おっとりとしている雛先輩だもんな。先輩なんだけど、なんかほっとけないと思わせられるオーラがある。

「姉さんには心配性なくらいがちょうどいいの」

「あら、ひどいわ~健ちゃん。私、お姉さんなのに~」

「まるでけんくんがお兄ちゃんみたいだね」

 さすが杏子姉ぇ……思っていることをさらっと口にしてしまう度胸よ。雛先輩の方が年上なのに。

「杏子ちゃんまでひどいわ~。私、これでもちゃんと出来るんだから~」

 雛先輩も杏子姉ぇにぷりぷりと反論している。

「でも、わかってたけど、雛さんが行っちゃうのは寂しいね」

「ああ、本当に」

 綾奈が言ったように、雛先輩が離れてしまうことに寂しさを感じないやつなんてここにはいない。

 雛先輩の新天地での生活が良いものになるよう願いながら、笑って送り出すのがいいのはわかってるんだけど、雛先輩が乗り込む電車が刻一刻と近づいてくると思うと、どうにも湿っぽくなってしまう。

「雛さん、次はいつ会えますか?」

 香織さんが雛先輩のそばに行った。別れを惜しむような、眉が八の字になり声も弱々しい。

「そうねぇ、早くてもゴールデンウィークかしら~」

 ゴールデンウィーク……一ヶ月と少ししたらやって来るけど……。

「……長いですね」

 香織さんの言う通り、なんだかとても長いと感じてしまう。

「会えない間は電話やメッセージをたくさんしましょうね~」

「……はい! 約束ですよ」

「姉さん、そろそろ……」

 健太郎が時計を見ながらそう告げた。

 俺も時計を見ると、雛先輩が乗る電車があと五分ほどで到着する。

「そうね。それじゃあ……」

 雛先輩は茉子を離し、改札へと向かうかと思ったけど、雛先輩は茜の前に立った。

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