第614話 緊張する真人
三月二十九日、水曜日。
この日はお昼から綾奈と一緒に高崎高校の最寄り駅に来ていた。
ちなみに午前中から一緒にはいない。綾奈は部活が休みだったけど、午前中はお互いの家で過ごしていた。
そして、なんで綾奈の部活が休みで、俺も一緒にこの駅にいるのかというと……。
「えっと、マラソン大会で友達になった人……
「うん。え~っと……
そう。綾奈がマラソン大会で手を貸した女子、金子舞依さんと数日前から会う約束をしていたからだ。
最初、綾奈からその話を聞いた時には、綾奈と二人で遊ぶんだと思っていたんだけど、俺の予想に反して「真人にも会いたいって言ってたから一緒に来てほしい」と言われた時にはびっくりした。
なんか色々俺自慢をしていたって聞いたけど、綾奈の俺に対しての評価……自慢するほどいい内容しか言ってないというのはわかってるんだけど、それがそのまま人に伝わるのは、ちょっと照れるというかなんというか……。
良い評価で伝わっているのだから、そのままどっしりと構えとけばいい場面なのかもしれないけど、そもそも俺はそんなキャラじゃない。
「緊張してきた……」
心拍数が上がって、手に汗をかいてきた。
綾奈が不快に思うかもしれないから、手を離さないといけないのに綾奈は手を離してくれない。
「え~、大丈夫だよ。舞依ちゃんいい人だから」
「綾奈の友達だから、そこは微塵も疑ってないよ」
「えへへ」
俺の言葉が嬉しかったのか、綾奈はふにゃっとした笑顔を見せた。
そして俺と繋いでいる手に少し力が入った。俺が手汗をかいていることは、綾奈だって気づいてるはずなのに、まったく離す気配がない。俺の手汗すら受け入れてくれるというのか……!?
俺も……そうだな。綾奈が手汗をかいていたって手を離すことはしないな。
まぁ、それは置いといて、今は緊張してる理由だ。
「緊張してるのは……俺のパーソナルな部分が関係してるんだよ」
「真人のパーソナルな部分?」
「うん。ほら、俺って元々陰キャオタクの人見知りだからさ」
中学の頃はマジで一哉としか喋ってなかったし、高校に入って健太郎に初めて話しかけたのも、ちょっと勇気を振り絞った。
そんな俺の人見知りの部分が久しぶりに出てしまい、『待ってました』と言わんばかりに、人見知り君がその実力をいかんなく発揮している。
「……もしかして、無理させちゃった?」
「してない! ……と言えば嘘になるかな。多分綾奈に嘘ついても簡単にバレそうだし」
「私は真人の奥さんですから」
綾奈はえっへんと胸を張った。ドヤるお嫁さんも可愛い!
「この緊張も最初だけだと思うからさ、気にしないでよ。綾奈のためならこのくらいへっちゃらだからさ」
綾奈のためなら、多少の……いや、かなりの無理でも喜んで引き受ける。お嫁さんのために無理をしないで、いつ無理をするっていうんだ。
「うん。ありがとう真人。……大好き」
「俺も、大好きだよ綾奈」
お互いに愛を囁きあい、繋いでいる手に力を込めて、俺たちはまた歩きはじめた。
そして駅を出て、綾奈がキョロキョロと辺りを見渡していると……。
「綾奈ちゃーん! こっちだよ!」
少し離れた所から女の人の声が聞こえた。
「舞依ちゃん! 行こ、真人」
「う、うん!」
俺は少しだけ綾奈に引っ張られながら、金子さんが待つ方へと走った。
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