第613話 美奈の下した決断は

 ゲームが終わり、コントローラーを床に置いた俺は、美奈に尋ねた。

「どうだった美奈? 修斗と普通に話せてたんじゃないか?」

 みんなゲームに熱中していて、美奈と修斗は途中から普通に喋っていたと思うし、チームワークもけっこう取れていたんじゃないかと思っていた。

 初詣での喧嘩にも似たやり取り、バレンタイン前の、あの頑なに修斗にはチョコをあげないと言っていたのを見ているから、修斗に対する態度はかなり軟化したんじゃないか?

「た、確かにゲームに集中してたから、そんなの気にする余裕なんてなかったかもだけど……」

「けど?」

「……」

「美奈ちゃん……」

 美奈はそれ以上口を開こうとはしない。まだ少し意地を張っているようにも見えるな。

 綾奈はそんな美奈を心配そうに見て、肩に手を置いた。

 今度は修斗に聞いてみるか。

 修斗は美奈に歩み寄ろうとしているから、本音で話してくれるはずだからな。

「修斗はどうだった?」

「そう、ですね……正直すごく楽しかったです。それに、こい……中筋と普通に喋ったのもすごく久しぶりで、嬉しかったですね」

「……!」

 異性に対してここまで本音で話すのはかなり勇気がいるはずなのに、修斗は包み隠さずに自分の気持ちを打ち明けている。

 驚くほどまっすぐだ。

 俺をディスっていた頃の修斗は面影すら見えない。

「それに、お前たちはチームワークも取れていたしな」

「「え?」」

 俺はゲーム終了直後に思っていたことを口にしたら、美奈も修斗もびっくりしている。

「あれ? 綾奈、俺変なこと言った?」

「言ってないと思うよ」

「だよね」

「いやいや! 私たちのどこにチームワークなんてあったの!?」

「そ、そうですよ! 俺たち、離れて戦ってたのに……」

「それだよ」

「「え?」」

 この反応……どうやら本当に気づいてないみたいだな。

 この中で一番ゲームに疎い綾奈も気づいてるっていうのに。

「二人は全力で俺と綾奈を分断させるために立ち回ってたろ?」

「うん。お兄ちゃんとお義姉ちゃんが揃うと手がつけられないもん」

「……あの流れるような連携は恐怖を感じました」

「ふえ、そんなに!?」

 まぁ、俺たちも必死だったからな。

「美奈と修斗のそれだって立派な連携だよ。俺たちは二人の術中に見事にハマって、全力を出したのに負けた。少なくとも対戦中は、二人は一緒の目標に向けて協力し合っていた」

「「……」」

「美奈、どうだ? まだ修斗と友達になるのは嫌か?」

「……」

 美奈は両手で拳を作り、目をキュッと閉じ、口を真一文字にして噤んでいる。どうやら美奈の中で、ものすごい葛藤が繰り広げられているに違いない。

 兄としては、やっぱり美奈の方からも修斗に歩み寄ってほしい。首を縦に振ってほしい。

 美奈以外の俺たち三人は、固唾を呑んで美奈の次の言葉を待つ。

 そして美奈は全身の力を抜き、ゆっくりと目を開けて言った。

「正直言うと、やっぱり嫌」

「……」

「美奈ちゃん……」

 ……ん、ちょっと?

「でも私だけ意地張ってお兄ちゃんとお義姉ちゃんを困らせたくないし、それにさっきの勝負は、あんたと組んで、た……楽しいって思ったのも事実だから……」

 こ、これは、もしかして……!


「だから……なる。あんたと、友達に」


「……!」

 すごくボソボソと、斜め下を向きながらだけど、確かに言った!

「やったな修斗!」

「はい! ありがとうございます真人おにーさん!」

 修斗は俺の手を両手で包み、心からの感謝を俺に伝えてきた。

 めっちゃいい笑顔で、本当に嬉しいのが伝わってくる。

「美奈ちゃん、頑張ったね」

「……うん」

 綾奈は美奈の頭を撫でて、美奈の頑張りを称えている。

 俺も美奈のそばに移動して、美奈の背中をぽんぽんと叩いた。

「よく言ったな美奈」

「……うん」

 これ以上は何も言うまい。俺と綾奈で美奈の頑張りと勇気を言葉以外で褒め続けよう。

 しばらくして気持ちが落ち着いた美奈と修斗は連絡先を交換して、修斗は帰っていった。

 帰り際も修斗はいい笑顔で、美奈も修斗が帰ったあとは、かすかにだけど笑顔だった。

 これから二人がいい友達関係を築いていけるか見守っていこう。

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