第610話 焚きつける真人

 一回戦目が終了。

 結果は俺と綾奈の勝利だ。

「お、おにーさんはともかく、綾奈先輩も強い……」

「ちょっと勘を取り戻すのに時間かかっちゃった」

 開始早々、修斗は綾奈狙いで突進してきたんだけど、それをガードして空中に逃げた。

 綾奈は空中戦メインで修斗を相手してくれていたので俺は美奈を相手することにした。

「お兄ちゃんなんであんなにベッタリひっついて攻撃してくるの!?」

「そりゃお前、あのゴリラのすごいパンチを食らったらめっちゃダメージ受けるからな。パワーを溜めさせないようにするのは鉄則だろう」

 美奈が使っていたゴリラはタメ攻撃が強力だが、パワーチャージに時間がかかるのが難点で、チャージする隙を与えずに弱攻撃でダメージを刻んでいった。

「それにお前たち、あんまり協力出来てなかったしな」

 修斗が地上に降りる間、美奈が俺たちを相手したり、美奈がパワーを溜めている間、修斗が美奈のそばにいて守ったりも出来たはずなのに、二人はそれをしなかった。

「あんたがお義姉ちゃんを手早く倒していれば……! アイテムも投げるのノーコンだし!」

「お、お前だっておにーさんに翻弄されっぱなしだったじゃないか!」

 ここは反省会をして次戦に繋げる場面なのに、いがみ合いを始めてしまった。

「おいおい二人とも。それじゃあ次の結果も見えるぞ」

「美奈ちゃんも横水君も協力しないと」

「そもそも横水と協力なんてのが無理だったんだよ!」

「……」

 美奈は頬を膨らませてぷいっとそっぽを向いてしまい、修斗は消沈して俯いてしまった。

 それだけ美奈とちゃんと友達になりたいんだな。だったら。

「綾奈、ちょっと耳貸して」

「うん」

 俺は綾奈に耳打ちをするために、綾奈の耳に顔を近づけた。

「……んっ」

 その瞬間、俺の息が綾奈の耳にかかったのか、綾奈の肩がピクッと跳ねた。

「……お兄ちゃんたち、なにえっちなことしてんの?」

「……」

「ち、違う! これは不可抗力だ!」

「あぅ~……」

 だからそんな引いたような目で俺を見ないでくれ!

 そして俯いていた修斗もいつの間にか頬を赤くしながらまじまじと俺たちを見てるし!

「ごにょごにょ……」

「う、うん。それなら大丈夫だよ」

 俺は綾奈にある提案をして、綾奈はそれを了承してくれた。

 ただ綾奈さん……耳まで真っ赤になってます。

 おっかしいな……イチャイチャは頻繁にしてるのに耳まで真っ赤になることはあんまりないんだけどな。

 耳打ちがいけなかったのかな?

 最後に耳打ちしたのいつだ? クリスマスイブのデート以来じゃないか?

「ありがとう綾奈」

 とにかくこれで美奈のやる気は上がるだろう。

「美奈」

「……なに? お兄ちゃん」

 あんまりその目で見られるとお兄ちゃん泣くからやめて。

「美奈が勝ったら、綾奈がまた一緒にお風呂に入ってくれるって」

「ほんと!?」

 これが美奈のやる気を出させる策……『綾奈と一緒にお風呂』だ!

 学年末テスト前にうちに泊まりに来た綾奈と美奈が一緒に風呂に入ったんだけど、美奈はとても嬉しそうにしていたから、もしこれをご褒美にすれば、美奈はきっとさっきより真剣に勝負に取り組んでくれるかもと思ったけど、予想通りだ。

「修斗には今度俺がご飯奢るよ」

「ま、マジですか!?」

「ああ、もちろん」

 そして修斗にもご褒美がなければフェアじゃないからな。

 ファミレスやハンバーガーとかなら全然余裕だし。

「勝つよ横水」

「お、おう」

 うんうん。二人がやる気になった。これでさっきよりも面白い勝負になるな。

 ……もうちょい薪をくべるか。

「ちなみに負けたらお互いを名前呼びな」

「絶対勝つよ横水!!」

「お、おお!」

 美奈のやる気が倍になった。

 そんなに名前呼びが嫌なのか……。

 とにかく、これで否が応でも美奈たちは勝つしかなくなった。

 もちろん俺も綾奈も接待バトルなんてするつもりは毛頭ない。一戦目同様全力で迎え撃つだけだ。

「こっちも勝つよ綾奈!」

「もちろんだよ真人!」

 美奈たちはキャラクターを選び直して二戦目がスタートした。

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