第609話 ゲームで協力して、仲を深めよう大作戦

 俺はパパッとゲーム機を出し、電源を入れた。

 美奈と修斗が何かを言おうとしたけど、俺は「まあまあいいから」と言って手を止めることはなかった。

「手伝ってくれてありがとう綾奈」

「えへへ、どういたしまして」

 俺が動くと同時に、綾奈も準備を手伝ってくれたのでスムーズに終わらせることが出来た。

 手伝ってくれたお礼に、俺は綾奈の頭を撫でると、綾奈は目をとろんとさせた。まるで猫みたいだ。

「あ、あの……おにーさん」

「ん?」

 綾奈の頭を撫でながら、自分の首だけ修斗の方に回した。

「な、なんでゲームを?」

「美奈と友達になりたいんだろ?」

「は、はい」

 俺は綾奈の頭から手を離し、コントローラーの一個を持った。

 この時、綾奈が少し残念そうな表情をしていたけど、俺は修斗を見ていたから気づかなかった。

「ならこのコントローラーを持って座って」

「説明になってないですよ!」

 俺は「いいからいいから」と言って、みんなに座るよう促し、テレビとゲーム機を起動させた。

 そして画面に映し出されたのは、冬休みにトーナメント戦をして、茉子が優勝をかっさらっていったあの吹っ飛ばし対戦アクションゲームのタイトル画面だ。

 俺はボタンを押してキャラ選択画面まで進める。

「今回は二対二のチーム戦だ。もちろんチーム分けは俺と綾奈、美奈と修斗だ」

 名付けて『ゲームで協力して、仲を深めよう大作戦!』……今考えたので作戦名はダサい。

「チーム戦、ですか」

「うん。修斗はこのゲームやったことあるか?」

「持ってるんですけど、最近はあんまり……」

 発売してけっこう経ってるもんな。

「なら全員操作はわかってるということで、練習なしで早速やってみるか」

 俺はカーソルを移動させ、前回のトーナメント戦でも使用したイケメン剣士を選択した。

「ち、ちょっと待ってください! え、綾奈先輩は……?」

「私もやったことあるから大丈夫だよ」

「ま、マジですか!?」

 綾奈がこのゲームをやったことがあることに対してかなり驚いているな。

 というか、綾奈がゲームをやるってイメージがまずないよな。実際に綾奈が初めてゲームに触れたのは、去年の十一月……俺が熱を出した翌日だったし。

 綾奈が最後にこのゲームをプレイしたのは冬休みの最終日だ。その間にもうちには何度も来ているけどゲームはしてないんだよな。

 冬休み中にめざましい成長を見せた綾奈だけど、二ヶ月半以上のブランクがあるけど、大丈夫かな?

「油断しないで横水。お義姉ちゃん、こう見えて侮れないから」

 実際、綾奈は美奈に勝ってるもんな。俺の提案にほぼ何も言わずにいるのを見るに、修斗の本音に驚きながらも美奈も満更ではないのか、それにもしかしたら、美奈は綾奈へのリベンジに燃えているのから、このゲーム対決に特に異論を挟まなかったのかもしれない。

「久しぶりの対戦……楽しみだなぁ」

 綾奈は前回のトーナメント戦で使用した、防御は紙だが復帰性能はピカイチの、ピンクの丸いヤツを選択。

 美奈は見るからにパワー系なゴリラを選択。

「あれ? お前あのおっさんキャラじゃないのか?」

 パワー系を選ぶとは……なんか茉子みたいだな。

「うん。パワーでゴリ押してお義姉ちゃんを倒す!」

「私も久しぶりだけど、そう簡単にはいかないよ美奈ちゃん」

 おお……なんか対戦前から義姉妹がバチバチやり合ってる。

 これは開始早々美奈が綾奈に仕掛ける展開かな?

 そして修斗だが、パワーとスピードを兼ね備えたボクサーキャラを選択した。

 こいつは地上ではマジで強いが、空中はからっきしなので、浮かせればこっちのもんだ。

 ただ相手はどちらもパワーがハンパないから、綾奈が真っ先にやられないようにサポートしなきゃな。

「ステージはギミックなしのシンプルなステージ、ストック制で残機は三。三回勝負で二回勝ったチームが勝者。これでいくよ」

 全員が頷いた。

 さて、俺もけっこう久しぶりだけど、そう簡単に遅れをとるわけにはいかない。

 美奈と修斗の親睦を深めるのが目的だとしても、やられる気なんて毛頭ない。むしろ二人を追い込み、そこでチームワークを発揮出来るかがポイントになってくるからな。

 テレビからバトルスタートのカウントダウンが流れ、俺はコントローラーを持つ手に力を込め、綾奈を見る。

 綾奈も俺を見ていて、頷きあって視線をテレビにうつした。

 さあ、いよいよバトルスタートだ!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る