第608話 警戒する美奈と、修斗の本音
「美奈ちゃん、どうしたの?」
「……」
綾奈が美奈に駆け寄るが、美奈は答えない。ただジト~っとした目で修斗を見ていた。
修斗はその視線を受けて、美奈から目を逸らした。
もしかして、この二人はまだ……?
「お、俺……帰ります」
「え?」
「ここに来た用も済んだので……おにーさん、綾奈先輩。また」
俺たち二人に会釈をし、部屋から出ていこうとする修斗の肩を、俺は咄嗟に掴んだ。
俺の勘は多分間違ってない……美奈と修斗は、まだ仲の悪いままなんだ。
三学期の始業式後、うちの前で言い合いをしていたけど、それでも普通に話せるくらいの間柄になったのだと思っていた。
俺と綾奈の誕生日プレゼントを買う際に、美奈に俺と綾奈の好きなものをリサーチするために美奈に聞いて、しぶしぶだけど美奈がそれを教えたから、毛嫌いはしていても協力し合っていると思い込んでいた。
だけどそれは違った。あの初詣の一件がいまだに尾を引いている。
俺はあの時、『普通のクラスメイトとして接してほしい』と修斗に言ったけど、これは違う。
「綾奈!」
「うん。美奈ちゃん。さ、入って」
俺の考えていることがわかっていたのか、綾奈は美奈の手を引いて俺の部屋に入れ、ドアを閉めた。
ドアが閉まる音を最後に、この密室となった空間に沈黙が訪れる。過去一空気の重い沈黙だ。
美奈も修斗も、自分から喋ろうとする雰囲気じゃない。ならここは俺が───
「美奈ちゃん。一体どうしたの?」
俺がここを取り持つしかないと思っていたけど、それより前に綾奈が動いた。
綾奈は美奈の後ろに回り、その両肩に優しく手を置いた。
「……こいつが、お義姉ちゃんに何かするんじゃないかって、警戒してずっと聞き耳を立ててた」
だから美奈の部屋前で止まった時、部屋から物音が聞こえてこなかったのか。
「こいつがこの家に上がるのが正直嫌だった。下の階からこいつの声が聞こえた時は本当にびっくりして……でもお兄ちゃんが招いて、お義姉ちゃんもそれをすぐに受け入れたから何も言えなかった」
「っ!」
やっぱり、美奈は修斗をまだ信用していない。毛嫌いしている。
……なんだか、一年以上前のことを思い出してしまうな。
当時の俺も、美奈にこんな態度とられてたし、そんな態度をとられてるのも当たり前の生活をしてたもんな。
もしかして、修斗も前の俺みたいに思ってるんじゃないのか?
「……そう思われても当然のことを、お前の大好きな真人おにーさんをディスって、綾奈先輩で最低なことを考えてたからな。無理ねーよな」
……俺の思った通りか。
なんとなく、今の修斗の目が当時の俺と同じような、『仕方がない』って目をしてると思ったら……。
「修斗はどうしたいんだ?」
「……え?」
「修斗は今のままを受け入れるのか? それとも、本当はこうありたいって思いがあるんじゃないのか?」
「おれ、は……」
俺は修斗の肩に手を置いた。
「修斗が美奈との関係に望む形があるのなら思い切って口にしてみなよ。言い返しにくい状況なのはわかるけど、言われっぱなしなのは修斗らしくないだろ? サッカー部のエースなら、たとえ入らなくてもシュートを撃つべきだ。たとえ外れたって、その一撃で流れが変わることだってあるんだから」
「おにーさん……!」
ガラにもなくクサいセリフを吐いたって自覚はある。現に美奈に、「今サッカー関係ないじゃん」って言われてるし。
だけど、ここでシュートを撃たないと、この二人の関係は気まずいままだ。普通のクラスメイトどころではない。
クサかろうがなんだろうが、俺はアシストするだけだ。
そして、意を決した修斗が口を開いた。
「……俺は、もう中筋といがみ合いたくない。普通に話が出来るような───」
修斗はそこで言葉を一度区切り、頭をぶんぶんと左右に振った。
「お前と友達になりたい!」
「なっ……!」
そして、美奈の目を見てはっきりと告げた。
美奈は驚きすぎて目を見開き、ちょっと赤くなっている。
それを聞いた俺は、修斗の肩から手を離し、パンと両手を合わせて言った。
「なら、ゲームをしよう!」
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