第597話 野球部デュオの気になっていること
おっとそうだ。俺も二人に聞きたいことがあったんだった。
「そういえば、樹は?」
最初から気になっていた、野球部トリオの最後の一人、
「ああ、あいつは朝弱いから」
「多分まだ寝てるんだろ」
樹って朝弱いんだな。
あれ? でも待てよ。
「中学で樹って遅刻したことあったっけ?」
「う~ん……私も沢津君が遅刻したのを見たことない気が……」
俺が綾奈のおばあちゃんの新田幸子さん……幸ばあちゃんの朝の散歩の手伝いをして、ギリギリで登校した日はいつも樹は先に来てたし、普通に登校した日も遅刻はなかった記憶がある。
「部活の朝練でお母さんに叩き起されてたからなぁ」
「こういう自主練の遅刻は茶飯事だけど、学校の遅刻はないぜ」
「ただ、いい加減一人で起きる癖をつけろとは言ってるんだが……」
「なかなか上手くいってない……と?」
野球部デュオは大きく頷いた。
高校を卒業したら親元を離れて一人暮らしを始める可能性だってあるから、今から一人で起きれるようにならないと数年後にはマジでヤバイんじゃないか?
「というか樹の話はもういいだろ。俺たち、真人にまだ聞きたいことがあるんだよ」
「なんだ? 今度も綾奈絡みか?」
正月に元クラスメイトのみんなと会った時のように、答えられるものは全部答えてやろうじゃないか。さあ来なさい!
「いや、もう砂糖は十分だ」
「これ以上は砂糖を吐いちまう」
あれ? 綾奈絡みじゃないのか。というか……。
「俺たち、二人に会ってからイチャイチャしたっけ?」
「さあ?」
「そういうとこだぞ!」
「「え?」」
「お前さっき、西蓮寺さんの頭を撫でてたろ!」
「「あ」」
そういやそうだった。自然にやってたから気づかなかった。
「まったく、リアクションまで完璧にシンクロしやがって! 夫婦か!?」
「夫婦だけど!?」
「うんうん!」
「……それで真人、風見に氷見杏子さんがいるって本当なのか?」
質問は杏子姉ぇについてだったか。
大人気若手役者の杏子姉ぇがこっちに帰ってきてからもう少しで三ヶ月だ。こっちに帰ってきているという噂が広まるのには十分すぎる。元々ここが出身地なのを知ってるのかは別として。
というか啓太のやつ、ツッコムかどうか悩んでスルーしたな。
「まぁ、本当だよ」
「マジかよ! お前は氷見杏子さんを毎日見てるのかよ!」
「俺だけじゃなくて一哉や他の風見の生徒もだけどな」
一応言っておいた方が良いだろうと思ったから言った。二人もそこはわかってると思うけど。
「なあなあ! やっぱり生の氷見杏子さんも可愛いのか?」
「そりゃまぁ、可愛いよ」
いとこの俺から見てもあの可愛さはヤバい。
雛先輩が卒業した今、風見高校一の美少女は間違いなく杏子姉ぇだろうな。
綾奈が隣にいるのに、他の女子を可愛いって言うのに若干の抵抗があったけど、杏子姉ぇには『むぅ』ってしないだろうし、俺が杏子姉ぇを『可愛くない』って言ったら、杏子姉ぇの大ファンの綾奈が怒りそうだし。
「だよなぁ! それで真人、ひとつ聞くが、お前って氷見杏子さんと知り合いじゃないのか?」
「お前ら、もしかして……」
俺が知り合いだったら、そのコネで杏子姉ぇに近づこうって魂胆か?
「俺たちも生の杏子ちゃんに一目会いたいんだよ! なあ真人、なんとかならないか?」
「やっぱり……」
そんなことだろうとは思ったけど、予想通りすぎて逆にびっくりだわ。
いや、これも杏子姉ぇの人気を考えたら自然な流れなのかもしれないな。
ただ……。
「単純にファンとして会いたいなら頼んでみるけど、それ以上の魂胆があるなら絶対に会わせないぞ」
たとえ友達でも、生の杏子姉ぇを見たら暴走しないとも限らないからな。ここの確認をしっかりしとかないと、杏子姉ぇを危険に晒してしまうかもしれないから。
「は? なんでお前がそこまで決める権限があるんだよ?」
「そうだぜ。お前杏子ちゃんのなんでもないだろ!」
「いやいや、めっちゃちょっかいかけてくるけど大切な姉ちゃんなんだから、弟としてそこはきっちりしときたいんだよ」
「は? 姉ちゃん? 弟?」
「お前嘘つくならもっとまともな嘘つけ───」
「真人と杏子さんはいとこなんだよ」
「「え?」」
そう言って綾奈はスマホを操作し、そのスマホの画面を野球部デュオに見せた。
「こ、これって……」
「マジかよ……!」
俺もその画面を見せてもらうと、そこには綾奈と杏子姉ぇのツーショット写真があった。
多分バレンタイン前の杏子姉ぇとのデートで、ゲーセンで撮ったプリクラだな。
「真人と婚約してる私も、杏子さんとはすごく仲良くさせてもらってるんだ~」
杏子姉ぇも綾奈が大好きだもんな。
さすがにこの証拠を突きつけられては信じるしかない野球部デュオは、頭の処理が追いついてないのかフリーズした。
そしてフリーズが解けると、質問攻めが始まったが、長くなりそうだったので適当に流した。
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