1年生編終章 支えられ春休み
第594話 走る距離を伸ばそう
それからの日々はあっという間で、春休みに突入した。
三月二十六日の日曜日の早朝。
今日も今日とて朝から二人でランニングだ。
今日は綾奈も部活はお休みなので、いつもより三十分遅い午前六時に綾奈の家に到着した。
「おはよう真人!」
「はあ……ふう……おはよう綾奈」
ランニングを始めて二ヶ月半が経過し、体力もついたけど、徒歩十分の距離を走ればやっぱり息切れはする。
俺が息を整えながら額の汗をぬぐっていると、綾奈が正面から抱きついてきた。
「えへへ~、ましゃと~♡」
ちょっとびっくりしたけど、甘えてきてくれたことが嬉しいので、なにも言わずに俺は綾奈を抱きしめ返した。
綾奈からいい匂いがして、ちょっと離したくないな。幸い人がいないからもう少し抱きしめてよう。
そして一分後、体力が戻ってきたのを感じながら俺は綾奈を離した。
「ありがとう綾奈。それじゃあそろそろ行こうか」
「どういたしまして。うん!」
綾奈が踵を返し、一歩駆け出した瞬間、俺はあることを綾奈に伝えてないのを思い出した。
「あ、ごめん綾奈。ちょっといい?」
「わっ! とっ、と……どうしたの真人?」
急に声をかけてしまったものだから、綾奈はびっくりして二、三歩片足だけで前に出た。こ、転ばなくて良かったぁ。
「ごめんね。ちょっと今日は走る距離を伸ばしてみない?」
「走る距離を?」
「うん。これは昨日の夜に思いついたことなんだけど、今まではダイエットのために走ってきたけど、その課題はとっくの昔にクリアしたでしょ?」
「うん」
「で、綾奈は来年のマラソン大会……千佳さんに勝つのを目標としてるから、今までの距離を走っていても体力はそこまで伸びないじゃん」
「うん。……確かに」
「それで、この春休みから、休みの日や部活がない日を利用して、ちょっと遠くまで走ってみないかなってね」
綾奈の部活がある日はいつもの距離しか走れないが、週三回の部活が休みの日なら、時間を気にする必要がないので、今日みたいにちょっと遅めに待ち合わせたり、遠くまで走っても時間的に余裕がある。
打倒千佳さんを掲げるのなら、マラソン大会で走る二キロを、ペースをほとんど落とさずに走る体力が必要となる。
となれば、二キロ以上を走って本番で余裕をもってゴールするくらいじゃないと千佳さんには勝てない。
まだ一年近く期間はあるけど、準備しすぎるくらいが丁度いいんだ。
「わかった。走るよ!」
綾奈はほとんど考えもせずに了承した。
「即答だけど大丈夫?」
「大丈夫! 真人が私のために考えてくれたプランだもん。絶対に体力をつけて来年のマラソン大会でちぃちゃんに勝つよ」
俺が考えたから迷う必要なんてない、か。
わかっていたけど、ここまで信頼されているって改めて思うと、やっぱり嬉しさが込み上げてくる。
「ありがとう綾奈。今日はドゥー・ボヌールまで走ってみようと思うんだけどいい?」
ここからドゥー・ボヌールまでは、いつもの人気のない公園の倍以上の距離がある。
さすがにキツいと思うけど、最初は別にノンストップで走ったりしなくても大丈夫だろ。
「わかった。じゃあ行こう真人!」
「うん。疲れたら歩くから遠慮なく言うんだよ」
「は~い。真人も無理しちゃダメだよ」
「わかってる。じゃあしゅっぱ~つ!」
「お~!」
俺たちは拳を天に掲げ、ゆっくりとしたペースで走り出した。
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