第591話 綾奈への特別なお返し

「おまたせ綾奈」

「おかえりなさい真人」

 お返しが入った袋を持って部屋に戻ると、綾奈がベッドから立ち上がった。顔がめっちゃ嬉々としている。

「あれ? 大きな袋……もしかして、真人も大きいのを作ったの?」

 大きいの……確かに綾奈のチョコは大きかったなぁ。味も格別だったし。

「いや、これはみんなから預かった綾奈へのお返しだよ」

 俺は床にあぐらをかき、袋に手を入れローテーブルに一つず置いていく。

「えっと、これが一哉と健太郎からで、そしてこっちが翔太さんと拓斗さんからだよ」

 拓斗さんは確か、星原さん以外にはクッキーを作ってたよな。

 翔太さんのお返し……一体どんなものを作ったのかな? 非常に気になる。

「わあ~。あとでお礼のメッセージを送らなきゃ」

 綾奈は普通に喜んでいたけど、ちょっとしたら視線がすぐに袋に移動した。

「そ、それで……ま、真人のは!?」

 どうやら俺のを早く見たくて仕方がないようだ。

 綾奈が帰るまでそんなに時間もないし、勿体つけずに早く出そう。

「はい綾奈。これが俺からだよ」

 俺は、ピンクの包装袋に入った自分のお返しを綾奈に手渡した。

「……♪」

 すごい、めっちゃ目をキラキラさせている。こんなワクワク感に満ちた綾奈を見るのも久しぶりだ。

「開けてもいい!?」

「もちろん」

 俺がそう言うと、綾奈は白のリボンを解き、包装袋の口を開け、その中に手を入れた。

 中には綾奈の手よりも少し大きな箱があり、ゆっくり箱を開けると、中からラップに包まれ、アルミカップに入った四個のマドレーヌが姿を見せた。

「こ、これ……マドレーヌ!?」

「う、うん。他のみんなにはクッキーだったけど、綾奈にはやっぱり特別な物を作りたいって思って、拓斗さんに教えてもらいながら、なんとか作れたんだよ」

 そんなに難しくないって拓斗さんから聞いていたけど、はじめて作るものだったからちょっと苦労した。

 でも、綾奈のこんな表情を見れたんだから、頑張ったかいがあったな。

 綾奈を見ていると、「はっ」となにか思い出したようで、次の瞬間にはロングスカートのポケットに手を入れスマホを取り出し、正月に俺が作った野菜炒めの時みたいにマドレーヌを写真に収めていた。

 うん。ポケットに手を突っ込んだあたりからそうじゃないかなって予想はしてたけど、見事に的中したみたいだ。

 綾奈はマドレーヌの写真データが追加された自分のスマホをポケットにしまい、キラキラした目で俺を見てきた。

「真人、このマドレーヌ……今食べたらダメかな?」

「もちろんいいけど、夕飯後だし、食べれる?」

 元々少食の綾奈だ。晩ご飯から三十分くらいしか経過してないけど、お腹のものは少しは消化できてるのかな?

「い、一個だけなら……」

 さすがに全部食べたりはできないよな。俺だって無理だ。

 いや、俺の場合は綾奈が作ってくれた卵焼きや他の料理を一心不乱に食べまくったせいでもあるけど。

「じゃあ……はい、どうぞ」

 俺はマドレーヌの入った箱を優しく綾奈の方に押し出したんだけど、綾奈はそれを取らずにマドレーヌと俺を交互に見てくる。

 あれ? これはもしかして……。

「その、あ~ん……してほしい」

 やっぱり!

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