第590話 夕食後、夫婦の団欒タイム

「ふぅ、お腹いっぱいだ~」

 夕食後、綾奈が帰るまでの短い時間、俺たちは部屋で二人で過ごしているんだけど、マジでお腹がパンパンだ。

 ベッドに座りながらお腹をさすってるんだけど、ここまで満腹になるまで食べたのは先月ぶりだ。

「もー、あんなにいっぱい食べるからだよ」

 綾奈もそんな言葉を俺にかけるが、別に呆れているわけでもなく、くすくすと笑っている。

「いやぁ、卵焼きも、他の料理も美味しすぎてつい……」

 本当に卵焼きが夕飯に出て、俺はめちゃくちゃ食べていた。美奈に「お兄ちゃん食べすぎ! 私にも残しといてよ!」と言われるくらいに。

 卵焼きだけでなく、肉じゃがやアスパラの肉巻き、綾奈の作った料理はどれも絶品だった。

「これ、綾奈と二人で暮らしはじめたらすぐ太りそうだ」

 俺の誕生日ではお互い食べさせあって、腹八分目で止めることができたけど、今日はマジで箸が止まらなかった。

 数年後、綾奈の料理を毎日食べることになれば、今日のように爆食いしてしまい、デブ一直線になりかねないな。

「そうならないために、ちゃんと栄養管理するつもりだから大丈夫だよ」

「助かります!」

 体重が増えると、社会人になってもまだランニングを続けないといけないしな。

 いや、逆に走ることが習慣づいているから走らないと変な感じになるのかな? いずれにしても、朝早い職種に就かない限りは走り続けてもいいかもしれない。

「話は変わるけど、拓斗さんやったね!」

 拓斗さんと星原さんの件は、部屋に入る前に話していた。綾奈も自分のことのように喜んでいた。

「うん。星原さんの『重い』って言葉でダメかもって思ったけど、まさかの逆転劇でね。もうめっちゃハラハラドキドキしたよ」

「それで真人、泣いちゃったんだ」

「う、うん……」

 なんで泣いたのかは言ってなかったんだけど、それだけ言えばわかって当然だよな。

「帰ったら望緒さんと拓斗さんにメッセージしちゃお」

「きっと二人は喜んでくれるよ」

 拓斗さん、休憩のあとは仕事に集中できたのかな? 星原さんと付き合えた嬉しさで舞い上がって翔太さんに怒られてなければいいんだけど……まあ、拓斗さんなら大丈夫か。

「望緒さんたち、続いてほしいね」

「続くと思うよ。きっとね」

 告白の返事で、星原さんはそこを濁していたけど、俺はなんとなく、この二人の関係はきっとずっと続いていくという確信みたいなものを感じていた。

 根拠はちょっとだけあるけど。ほとんど直感だ。

「そうなってくれると私も嬉しい」

「拓斗さんの告白……ちょっとプロポーズが入ったけど、もし星原さんが拓斗さんとの未来を少しでも嫌って思っていたら、『重い』で終わっていたはずだよ。なのに拓斗さんを受け入れたってことは、星原さんも拓斗さんと一緒になる未来を想像して、悪くないと思ったはずだよ」

 これが俺の根拠だ。

「真人が言うなら、きっとそうなるよ」

「願望が多分に含まれてるけどね。そうじゃなかったら俺は神様か何かかな?」

「真人 しんさま♡」

「……久々に聞いた」

 一月にあった中学のサッカー部の練習試合で、修斗のファンの中三女子三人組に言われた呼び名。

 最初俺をストーカー呼ばわりしていたのに、修斗が誤解を解いてくれたけどなぜか彼女たちに神格化されてしまったんだよな。

 綾奈は俺の反応を見て楽しんでいるみたいで、またくすくすと笑っている。可愛い。

 さて、綾奈とのおしゃべりは楽しいけど、そろそろアレを渡さないとな。

「綾奈。そろそろお返しを渡すから、一度下に降りるから待ってて」

「うん。どんなのかな? すごく楽しみ!」

 みんなのとは違うお返しを用意したけど、ここまで楽しみにされるとハードルが上がるな。

 でもまぁ、実は綾奈のだけは味を変えているから、そこは特別感を出しているんだけどね。

 俺は綾奈の頭を一撫でして、ベッドから腰を上げてリビングに降りた。

 階段を降りているあいだ、綾奈の喜ぶ顔を想像しながら……。

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