第588話 ツーショット写真を撮影する刑
「……ツーショット写真……ですか?」
「うん」
聞き返したけど、やっぱり聞き間違いじゃないみたいだな。
拓斗さんを見ると、拓斗さんもよくわかっていなくて俺と同じでポカンとしている。
というか、あれ、お叱りは? 痛ツボ刺激は?
俺は訳がわからずに星原さんと俺の手に載せられている星原さんのスマホを交互に見る。
え? マジでそんなのでいいの?
「あ、今『そんなのでいいの?』って思ったでしょ?」
「っ! ……は、はい」
ヤバいバレた! 星原さんはエスパーかなにかか?
「ふっふっふ~、真人君はこの写真の重大さがわかってないみたいだね」
星原さんは「チッチッチ」と言わんばかりに人差し指をピンと立ててそれを左右に揺らしている。
「じ、重大さ、ですか?」
マジでわからん。これから撮影する写真にはどれほどの意味が込められているんだ?
「考えてもみてよ。私と拓斗君が彼氏彼女になった記念の、初めての写真だよ? そんな記念すべき写真を真人君にお願いしているんだよ? 半永久的に残り、私たちが上手くいったとして、歳を重ねて何回も見返す写真なんだよ? いろんな意味で特別で、一番思い出に残る写真……ちゃんとしたものじゃないと、ダメだよね?」
「あ……」
考えてみれば、星原さんの言う通りじゃないか。
おふたりは今さっき同僚から恋人に関係が変わった。その記念すべき最初の一枚……拓斗さんと星原さんはおそらく今まで一緒に写真を撮ったことがないと考えたら、これ、めちゃくちゃ重要な任を任せられているじゃないか!
「本当に、いいんですか?」
「もちろん。それに婚約者がいる真人君ならきっと最高の一枚を撮ってくれるはずだし」
「は、ハードル爆上げするのやめてくださいよ!」
星原さんは俺を見てあははと笑っている。
うわぁ……一気にプレッシャーがのしかかってきたな。
「拓斗さんもそれでいい……え?」
拓斗さんにも確認を取ろうとしたんだけど、その拓斗さんは頬を赤くしてすごく照れていた。
「ど、どうしたんですか拓斗さん?」
「いやぁ……望緒さんに『彼氏彼女』とか、『特別』とか言われると、照れちゃって……」
「中学生か!」
目上の人ってわかってるんだけど自然とツッコミを入れてしまった。拓斗さん……ウブすぎない?
「私がはじめての彼女みたいだし、許してあげてよ」
「マジですか!?」
拓斗さんは照れた表情のまま、こくりと頷いた。
えぇ……これだけイケメンなのに、マジで意外だ。絶対にモテていたに違いないと思っていたのに。
「じゃあ真人君。ちゃちゃっとお願いね。もうすぐ休憩終わるし、真人君も家で綾奈ちゃんが待ってるんだから」
「わ、わかりました」
星原さんは俺の手から一度自分のスマホを取ると、少し操作してまた俺に手渡してきた。スマホの画面を見るとカメラモードになっていた。
「ほら拓斗君ももっとくっついてよ」
「は、はい……」
星原さんは拓斗さんの腕を持って自分に引き寄せた。
星原さん、手馴れてるというかなんというか……本当に拓斗さんが好きで告白を受け入れたのかな? なんてことを少なからず思ってしまったけど、それはまったくの杞憂だった。
だって、画面越しに見た星原さんの顔は、とても優しい笑顔で頬も少し赤くなっていたから。
この様子なら、二人の関係はきっと長く続いていく……そう確信し、俺は笑顔でシャッターをきった。
そこには、お互い指を絡めて繋いだ手を肩の高さまで上げ、星原さんは満面の、そして拓斗さんは照れてはにかんだ笑顔の二人が写っていた。
拓斗さん……本当におめでとうございます。
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