第586話 望緒の返事
「俺がここに入りたての頃から望緒さんは俺に積極的に話しかけてくれて、今以上に翔太さんや他の人に怒られて落ち込んでいても、望緒さんは励ましてくれて……それで少しずつ望緒さんに惹かれていったんです!」
「……」
拓斗さんの本気の告白、星原さんはどのような気持ちで聞いてるんだろう? ここでは表情が見れないから声で判断するしかないが、星原さんが一言も喋らないからそれも無理だ。
「でも当時、望緒さんには彼氏がいて、諦めようとしても出来なくて……そんな時に望緒さんが彼氏と別れたって聞いて、望緒さんが別れた直後で落ち込んでいたのに、俺はそれを聞いて、内心で喜んでしまった。本当にごめんなさい……!」
「……うん」
好きな人が恋人と別れたって聞かされたら、人間誰しも……多かれ少なかれそういう感情を抱くんじゃないのか?
拓斗さん……すごく誠実だよな。そういう本音は言わなくてもいいはずなのに、自分の気持ちを全部さらけ出そうとしているみたいだ。
「俺、本気です! 望緒さんが俺を笑顔にしてくれたみたいに、俺も望緒さんを笑顔にしたい……俺じゃ頼りないのはわかってますが、望緒さんを想う気持ちだけは誰にも負けません! 望緒さんの笑顔も、もちろん望緒さん自身も、ずっと全力で守っていくので……俺と、付き合ってください!」
ド直球の告白……余裕も変化球も
拓斗さん……めっちゃかっこいいな。
この全力の告白を聞いて、星原さんはどう返事をするのかな?
やばい……さらに緊張してきてなんか気持ち悪くなってきた。胃と心臓に悪い。
でも、拓斗さんは俺以上に緊張しているはずだ。
お願いします! 拓斗さんの気持ち、星原さんに届いて……!
足音が二回聞こえた。どちらかが歩み寄ったのかな? と思ったら、星原さんの声が聞こえた。
「ねえ、拓斗君」
「は、はい」
「さっき、ちょっとプロポーズ入ってたの、気づいてる?」
「え? ……えぇ!? ぷ、プロ───」
「『ずっと全力で守っていく』って」
「……あ」
お、俺も気づかなかった。確かに『ずっと』って言葉にしたら、それはすなわち『一生』と解釈されたとしてもおかしくない。
「綾奈ちゃんと真人君にあてられちゃったのかな?」
「っ!!」
いきなり俺の名前が出てきて痛いくらい心臓が跳ねた。今まさにめちゃくちゃ緊張していて心臓バクバクなのに、そんな状態で跳ねられたらマジで痛い。
「いや、その、なんというか……俺の願望が出ちゃったといいますか……」
さっきはめちゃくちゃ慌てて大きかった拓斗さんの声が、デクレッシェンドがかかって徐々に小さくなっていった。
話を聞く限りベタ惚れだったもんな。星原さんとの結婚願望があったってなんら不思議じゃない。ブレーキが効かずにそれが少し漏れ出ただけなんだ。
「……やっぱり重い、ですよね」
「そうだね。重いね」
「っ……」
だけど、星原さんはキッパリ『重い』と言い放った。
俺が言われたわけでもないのに、俺の心臓にズキリと痛みが走った。
拓斗さんの本音がちょっと出すぎてしまったけど……それが命取りになっちゃうのか!?
「でもまぁ……」
「え?」
「……!」
え? まだ続きがある?
「私も拓斗君といる時間は好きだし、君と話してると楽しいのも事実だし、私も……まぁ、満更じゃなかったし……」
「み、望緒さん……?」
今度は星原さんの声にデクレッシェンドが!? ま、まさか、これって……!?
「……拓斗君の言った『ずっと』は、まだ約束は出来ないけど、それでも良かったら───」
「あ、ああ……!」
え? え!? マジで!?
「こちらこそ、よろしくお願いします」
「……は、はい! よろしくお願いし───」
「よがっだーーーーー!!」
「「っ!?」」
拓斗さんが星原さんを想い続けていたのを聞いて、大逆転の告白成功、そしてカップル誕生の瞬間に、二人の了承なしに偶然にも立ち会った俺は、感極まって泣きながら大声で叫んでしまった。
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