第583話 ドゥー・ボヌールの2階へ
俺は足取り軽くドゥー・ボヌールに到着し、店内に入ると、お客さんがまだけっこういた。もうそろそろ日が沈みはじめる時間だけど、相変わらずの繁盛具合だ。
「ああ、いらっしゃい真人君」
今回俺に声をかけてくれたのは星原さんではない女性のスタッフさんだ。綾奈よりも少し短い黒髪の人だ。
「こんにちは。えっと、麻里姉ぇってもう帰ってきてますか?」
「麻里奈さん? ちょっと確認してくるから待っててね」
「すみませんお願いします」
俺が頭を下げると、そのスタッフさんは笑顔で手を振りながら厨房に入っていった。翔太さんに聞くのかな?
その厨房を見ると、拓斗さんの姿も見えない。今日、星原さんに告白するって言ってたし、店内を見える範囲で見渡したけど星原さんもいなかったし、二人とも今日はお休みなのかもしれないな。
少しして翔太さんがこちらにやってきた。
「やあ真人君」
「こんにちは翔太さん」
俺は翔太さんに会釈をした。相変わらずものすごいイケメンな笑顔だ。
「麻里奈は少し前に帰ってきて今は上にいるよ、多分夕飯を作ってると思うから、今回は真人君が上がってもらえるかい?」
「え? いいんですか!?」
「もちろんだよ。真人君は
あの扉か。どこに繋がってるんだろうとは思ってたけど、あそこから二階に上がれるのか。
確か、俺の誕生日に麻里姉ぇは裏から出てきたって言ってたし、二階へ通じる階段は二つあるんだ。
というか厨房の奥に階段があるのに、「遠慮は無用」ってなかなか難しいことを言うな翔太さん。
ここは普通に裏口から入るんじゃない? まぁ、翔太さんがいいって言うなら入るけど。
「さっそく上がるかい?」
「そ、そうですね」
今日はケーキを食べに来たわけじゃないし、ここでじっとしていても翔太さんたちに迷惑がかかるから、早く用事を終わらせて家に帰ろう。
翔太さんは「じゃあついてきて」と言って前を歩き出したので、俺もあとに続いて厨房に入る。
厨房にいたスタッフさんには少し驚かれたけど、翔太さんが連れてきたことを理解すると、俺に笑顔を向けてまた作業に戻った。皆さんと顔見知りだからできることだ。
厨房の奥にある扉の前に到着し、翔太さんがその扉のノブを回して開けた。
正面は突き当たり、右を見ると階段がある。
「さあ、どうぞ真人君。あ、靴はここで脱いでね」
「わかりました。……失礼します」
俺は翔太さんにぺこりと頭を下げ、扉の奥に進む。
はじめて足を踏み入れる、まだ見ぬ松木夫妻の居住空間に、俺は靴を脱ぎながらも徐々に緊張が強くなっていった。
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