第581話 春休みの部活も一緒に登校したい

 部屋でラノベを読んでいると、綾奈の部活終了のメッセージを受け取ったので、再び駅へと向かうために家を出た。

「あ、いけね!」

 家を出てすぐ、麻里姉ぇに渡すクッキーを忘れたことに気づいたのでまた家に入った。

 家を出た直後にまた戻ってきた俺を見て、母さんが不思議がっていたけど、冷蔵庫から取り出した箱を見て「なるほど」と言って納得していた。美奈はちょっと呆れていた。

 出かける目的の半分を忘れかけたが、それをエコバッグに入れ、今度こそ家を出る。

 本日三度目の駅構内に入る。どうやら綾奈はまだ到着していないみたいだ。ちょっと早足で来てよかった。

 そうして待つこと七分。電車が到着し、しばらくすると歩くランドマークの千佳さんの色素の薄いオレンジ色の髪が見えた。

 俺と綾奈たちとの直線上に人がいなくなり、俺を視認した綾奈が駆け足でこちらに向かってきている。

「真人!」

 そして綾奈はそのままの勢いで俺に抱きついてきた。駅でハグするのは久しぶりだけど、相変わらず周りの人の目を気にしちゃいない。俺もだけど。

「おかえり綾奈」

「ただいま真人。えへへ」

 ふにゃっとした笑顔を俺に見せて、それから俺の胸に顔を埋める綾奈の頭を優しく撫でる。今朝と同じやり取りだ。

「千佳さんもおかえり」

「ただいま。ありがと真人」

 ゆっくり歩いてきた千佳さんにも「おかえり」を伝えると、千佳さんは普通に「ただいま」と返してくれた。

 今、駅構内で俺に抱きついてきている綾奈を見ても何も言わないのを見るに、どうやらこれも見慣れてしまったみたいだ。

 外に出て、先に帰ると言って歩き出した千佳さんに手を振り、俺は綾奈を見る。いつ見ても可愛いなぁ。

「じゃあ綾奈。俺たちも行こっか」

「うん!」

 繋いだ手を離さないまま、俺たちも歩き出した。


 向かっているのは綾奈の家だ。どこかに行くとしても、まずは綾奈も帰宅して着替えないといけない。……厳密にはいけないわけではないけど、やっぱり制服だと動きにくいし。

「ところで綾奈。お昼は食べてるんだよね?」

「うん。部活があるのを伝えてるからお母さんにお弁当作ってもらって食べたよ」

「部活かぁ……。俺も四月に入ったら部活に参加しないとな」

 俺は合唱部に籍を置いているけど、あくまで臨時部員だ。コンクールや学校行事で歌を披露する機会が近くならないと、基本は帰宅部と変わらない。

「来月? ……あ、そっか」

「うん。入学式の校歌斉唱」

 新しく入ってくる生徒に、はじめて我が校の校歌を聞いてもらう場だ。しっかりと練習をして、新入生に聴いてもらって、早く覚えてもらいたいな。

「私も部活があるから……じゃあ四月は春休み中も一緒に登校できるね!」

 綾奈の笑顔がキラキラと輝いて眩しい。部活で一緒に登校できると思っただけでこの喜びよう。本当に旦那冥利に尽きる。

「うん。部活は午前中だったはずだから。綾奈も?」

「うん!」

「九時から?」

「そうだよ」

 綾奈の誕生日の時、俺は綾奈の家にお泊まりをしたんだけど、綾奈は朝、八時過ぎくらいに、部活のため家を出たんだけど、多分九時からだと予想していたから、それが見事的中した。

「確かうちも九時からのはずだから、問題ないな」

「やったー! じゃあ四月は一緒に部活に行く。約束ね」

「おう!」

 俺たちは一度立ち止まり、指切りをした。

 俺も来月頭からの部活がすごく楽しみだ。

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