第580話 美奈にお返しを
「ただいまー」
帰宅しリビングに入ると、母さんと美奈が昼食をとっていた。
「あ、お兄ちゃんおかえりー」
「おかえり真人。お昼食べるわよね?」
そう言って母さんが椅子から立とうとしていたので、俺はそれを手で制した。
「ああ、いいよ作らなくて。自分で適当に作るからさ」
せっかく熱々の焼きそばを食べているのに、俺のご飯を作るあいだに冷めてしまうのはなんか申し訳ないし。
それにさっき茉子の家で思ったこと……お店を出す云々で、本当にそうなるかはわからないけど、そうでなくとも料理のスキルは磨いていて損はないから、できる限りは自分で作ろうと思った。
「あらそう? なら冷蔵庫のものは適当に使っていいわよ。あとで買い物に行くから」
「わかった。あ、そうだ」
俺は自分の部屋に向かう前に、冷蔵庫を開き、奥にしまっていたクッキーが入っていた箱を取り出し、それを持って美奈の元へ向かう。
「ほい美奈。先月はありがとうな」
「ありがとうお兄ちゃん」
先月とは打って変わって、随分とあっさりと渡した。
まぁ、昼だし、美奈はご飯食べてるしな。それに今日は綾奈がうちで夕食を食べるんだ。そのあとは綾奈を送っていくし、そうなると渡すタイミングを逃しそうだったから、今のうちに渡しておこうと思ったのだ。
「これ、手作り?」
「うん。日曜日に拓斗さんの家で作らせてもらった」
「へぇ~……お兄ちゃんの手作りか」
美奈はそう言うと、なぜかちょっと口の端をつりあげた。なんだよその笑いは?
「どうした?」
「お兄ちゃんのこういう手作りの物を食べるのってはじめてだな~って思ってね。お義姉ちゃんも美味しかったって言ってたし、一月にお兄ちゃんがお義姉ちゃんの家にお泊まりした翌週の月曜日に、横水のヤツが『真人おにーさんのガトーショコラめっちゃ美味かったぞ』って言ってきてマウント取ってきたからめっちゃムカついて、食べたいって思ってたんだよね」
「修斗……」
自慢するのはいいけど、なんであいつは美奈を煽ってんだよ。
「だからありがとうお兄ちゃん。これ、あとで食べるね」
「おう」
笑顔の美奈の頭を撫で、俺は自室に行き私服に着替えて、再びリビングに入った。
さて、何を作ろうか? 今の時刻は一時半。確か綾奈の部活が二時過ぎに終わるって言っていたから、あまり時間は残されてない。
となると、手の込んだ物は作れない……というか俺のスキル的にも無理なので、ここは無難に冷凍のチャーハンでも炒めるか。
フライパンの扱いに慣れるのも、立派な料理の修行だ。
自分にそう言い聞かせ、フライパンをコンロの上に置き、熱せられたタイミングで油を入れ、冷凍庫からチャーハンが入った袋を取り出し、その中の半分くらいをフライパンに投入し炒める。
それをよく噛んで平らげ、俺はまた部屋に戻り、綾奈のメッセージが来るまでラノベを読んでいた。
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