第577話 放課後、一哉と共に健太郎の家へ

 お昼前、放課後になり、俺と一哉は健太郎と一緒に三人で健太郎の家へとやってきた。

「ここに来るのは久しぶりだなぁ」

「俺もだ」

 俺が最後に来たのは、雛先輩をここに送ってった時以来だから、四ヶ月ぶりくらいか。

 一哉のやつはどうなんだろ? もしかしたら季節が二つくらい変わってるくらいじゃないのか?

「真人も一哉も家が離れてるもんね。さ、どうぞ上がってよ」

「「お邪魔します」」

 俺たちが健太郎の家に入ると、階段から誰かが降りてくる音が聞こえてきた。二階って確か、健太郎と雛先輩の部屋があるはずだから、今降りてきているのは……。

「いらっしゃ~い。真人君、山根君」

「「……」」

 俺と一哉は降りてきた雛先輩を見てぽかんとする他なかった。

 だって雛先輩の格好が……。

「ちょっと姉さん! 二人が来るって言っていたのになんて格好をしてるの!?」

 健太郎もお姉さんの格好を見て珍しく咎めている。

 それもそのはず、雛先輩の現在の格好はジャージ姿だったからだ。もっと詳細に説明をすると、赤色のジャージはファスナーが全開で、中に着ているキャミソールが見えてしまっている状態だ。

 もちろんそんな装備では大丈夫なわけはなく、雛先輩の豊満な果実がこれでもかと主張していてとても目のやり場に困る。谷間もめっちゃ見えちゃってるし。

 かと言って目線を下にやれば、今度はショートパンツから伸びる雛先輩の少しむちっとした美脚が惜しげもなく晒されているわけで、かなり露出が高い。

 それから雛先輩は、うっすらと汗をかいているみたいで、その汗をキャミソールでふくものだから、今度は雛先輩のおへそが見えてしまった。

 や、ヤバい。雛先輩のどこを見てもダメだ。ここに綾奈がいなくて本当によかった。

 一哉は……目を閉じているが頬は真っ赤だ。ドキドキするのは茜に悪いと思って瞑目しているのかな? ……ちょっと幼なじみには失礼な表現になってしまうけど、雛先輩は茜とは真逆なスタイルだからなぁ。

 というか、そもそもなんでこんな薄着で汗をかいているんだ? 暦の上ではもう春だけど、そこまで温かくはないのに……。

「姉さん、まだ荷造り終わってなかったの?」

「そうなの~。向こうに持っていく物が予想以上にいっぱいあって~」

「あ……」

 そっか。荷造りをしていたから、そんな薄着でも汗をかいていたんだ。

 衣装関係の専門学校に行くから、学校関連の書類や道具、衣装作りに必要な道具や既に作っている衣装、そのほか大切にしている物も向こうに持っていくのかもしれないな。

「ごめんね~、ふたりが来るまでには着替えようと思ってたんだけど、なかなか作業が思うように進まなくって、気がついたら~……」

「そ、そういう事情なら仕方ないと思います! ただ雛先輩、出来れば上は閉じていただけると助かるといいますか……ほら、一哉もまだ目を瞑ったままですし」

 俺もそろそろ雛先輩の方を向いて喋りたい。今だって首を左に回して喋ってるし。

 こういう態度は先輩に対して失礼なのはわかってるけど、雛先輩の身体をじ~っと見るのよりはマシだ。

「あ、ごめんね真人君~」

 雛先輩の方から「ジー」っという音が聞こえたので、どうやらファスナーを閉めてくれたようだ。

 これでようやく雛先輩を見てしゃべれ……。

「!?」

 雛先輩はジャージのファスナーを閉めた。確かに閉めてくれた。

 ただ……なかなかのパツパツ具合いで、これは果実の大きさをさらに目立たせる結果になってしまったような気がする。

 一哉は……目を開けたけど相変わらず頬は赤い。俺も人のこと言えないけど。

「おい一哉、とりあえず、早くお返しを渡すぞ」

「お、おう。そうだな」

 俺と一哉は、雛先輩の顔を見るのを意識しながらそれぞれお返しを手渡した。

「ありがとうふたりとも~。あとで大事にいただくわね~」

 そう言って、雛先輩はにこにこしながら俺たちが手渡したお返しを胸に抱いた。

「ふふ、真人君の手作りクッキー、楽しみだわ~」

 雛先輩が何か言ったみたいだったけど、俺と一哉の耳には届いていなかった。

「ふたりとも、このまま上がっていく?」

「せっかくだけど今回は遠慮しとくよ。今から戻って茉子の家に行くから。それに、俺たちがいたら雛先輩も荷造り進まないかもしれないから……」

「俺も帰るわ」

 雛先輩のことだ。絶対に荷造りそっちのけで俺たちにかまうはずだ。

 まだ向こうに行くのは先だけど、できるだけ雛先輩の邪魔はしたくない。

「わかった。じゃあまた明日、学校で」

「おう。雛先輩、お邪魔しました」

「荷造り頑張ってください」

「ありがとう、真人君、山根君。またね~」

 清水姉弟に笑顔で手を振り返し、俺はゆっくりと玄関を閉め、一哉と一緒に駅に向かって歩きだした。

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