第571話 5回の可愛い
「おいしいね真人」
モンブランを食べてご満悦の綾奈は、幸せいっぱいな笑顔を俺に見せてくれた。
「っ! ……ごほっ、ごほっ!」
一方の俺は、そんなお嫁さんが可愛すぎて、ドキッとしてむせてしまった。
「だ、大丈夫真人!?」
「だ……だいじょーぶ。その、綾奈が可愛すぎて……」
「……へ?」
俺はそれだけ言うと、ココアでケーキを流し込んだ。綾奈がなんか驚いたような声を出したけど……?
俺はカップを口から離し綾奈を見たら、綾奈は目を見開いて真っ赤な顔で俺を見ていた。
「どうしたの綾奈?」
「だ、だって……ましゃとがいきなり「可愛い」なんて言うから……」
「いや、本当のことだし」
ぶっちゃけると、付き合ってからは一日最低五回は『綾奈可愛い』と心の中で言っているよ。
「…………えへへ♡」
はいまた可愛い!
この一分にも満たない短い時間のやり取りで二回も『可愛い』と思わせる俺のお嫁さん……マジで最高だな。
「ところでどう? 久しぶりのケーキのお味は」
俺も綾奈も落ち着いたところで、俺は綾奈にケーキの感想を聞いていた。
「そこまで久しぶりじゃないけど、最高だよ」
さっきも同じ感想を聞いたのに、なんでこんな質問したんだろ? それにしても可愛い。
「前に食べたのは、雛先輩の卒業パーティーだっけ?」
「うん。それに、あの時もダイエットで食べる量をセーブしていたから……」
「あー確かに。でも今日はここまでダイエット頑張ってきたし、それにマラソン大会も終わったからね」
「うん。明日からも引き続き走るけど、今日はいっぱい食べちゃおうと思ってるよ」
そう言って、綾奈はモンブランを一口サイズに切り、それをフォークで突き刺し口に運んだ。
「ん~……おいひい♡」
そしてまた幸せそうな笑顔を俺に見せてくる。とことん可愛いな。
ドゥー・ボヌールのケーキと綾奈の笑顔……お腹と心が幸せで満たされていく。
「あ、そうだ綾奈。明日って部活あるの?」
「明日? ……うん。授業は午前中で終わりだけど、部活は午後からあるよ」
高崎高校は、今日はマラソン大会だったから合唱部はお休みだったけど、明日は普通になるのか。
「そっか。ならどうしようかな?」
「明日……あ、ホワイトデー!」
マラソン大会で頭がいっぱいだったから、もしかしたら失念していたのかもしれないな。ハッとした綾奈も可愛いな。
「うん。だからいつ渡そうかと思って……」
普通に考えたら、部活が終わった綾奈を駅まで迎えに行って、その時に渡すのがベターだと思ってる。明日は先月のバレンタインみたいに夕食にお呼ばれされてないしな。
弘樹さんと明奈さんから、いつでも来ていいと言われてはいるけど、アポなしでご相伴にあずかろうとするのはさすがに失礼がすぎる。
「ん~……お昼すぎから真人に会───」
「あら? 真人と綾奈ちゃんじゃない」
「「え?」」
俺たちが頭を悩ませていると、近くで聞きなれた女性の声が聞こえたのでそちらを見ると、なんと母さんがこのドゥー・ボヌールに来ていた。
「か、母さん!」
「良子さん!」
一度家に帰って、母さんに「綾奈と会ってくる」としか言ってなかったから、どこに行くかは伝えてなかったのに……なんつー偶然だよ。
「な、なんでここに?」
「あれ? 真人君、この方と知り合いなの?」
俺が母さんになんでここに来たのかを問うのとほぼ同時に、近くを通りかかった星原さんがこちらにやって来た。
「望緒さん、この人は真人のお母さんですよ」
「え、マジ!? あ、えと、ようこそいらっしゃいました!」
星原さん、もしかしてちょっとテンパってるのかな? うちの母さんが来ただけなのに。
「あらあらご丁寧に。真人の母の良子です。いつも息子がお世話になっております」
「い、いえそんな……ち、ちょっと店長呼んできますね!」
星原さんは厨房に走っていった。お客さんもいっぱいだから、ぶつからないかヒヤヒヤする。
無事に厨房に入った星原さんを見届けて、俺は母さんに視線を戻した。
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