第570話 望緒をチラ見する拓斗
「「こんにちはー」」
俺と綾奈はドゥー・ボヌールにやって来た。
午後一時半の店内には、多くの女性客の姿があった。
俺たちのような学生や、主婦層、平日が休みの仕事をしている俺たちより年上のお姉さんがた、軽く見渡しただけでもいろんな人がいる。
というか、ここはいつ来ても男性客がほとんどいないな。
ここには綺麗な女性店員さんがいっぱいいるんだから、目当ての店内さん見たさに足繁く通う人がいてもおかしくないと思うんだけどなぁ。
このほとんど女性だけって空間に入るのに抵抗があるのかな?
「あ、いらっしゃい綾奈ちゃん、真人君」
俺たちを見つけて声をかけてくれたのは星原さんだ。今日もシフト入ってたんだな。
「こんにちは望緒さん」
「こ、こんにちは星原さん」
「そっか、もうすぐ春休みだから学校もほとんど授業がないんだ」
「そうですね。もう午前中で終わります」
「いいなぁ春休み! 私も春休みほしいよ」
そうだよな。学生じゃなくなったら、春休み……というか頭文字に季節がつく長期休みはなくなるんだよな。……今は考えないでおこう。
「望緒さんはお休みは取らないんですか?」
「ん~……取っても一緒に遊びに行く人がいないんだよね。みんな基本、土日が休みだから」
接客業をしている人って、基本的には平日が休みになるのか。そうだよな。土日なんてかきいれ時だし、定休日にしている所じゃないと休みは取りにくいだろうな。
……それにしても、星原さんの口から『彼氏』という単語が出なかったということは、拓斗さんの言っていたように、やっぱり今は彼氏がいないんだ。
俺は厨房を見ると、そこには翔太さんと拓斗さん、他のパティシエさんも忙しなくケーキを作っていた。とても他のことを考えている余裕はなさそうだ。
……ん? 気のせいか、拓斗さんがチラチラとこっちを見ているような。
え? もしかして星原さんを見てるのか?
大丈夫かな? 今まさにスポンジケーキに生クリームをコーティングしてるけど、周りに気を散らせているとムラができるんじゃ……。
翔太さんも忙しくしてるから、拓斗さんがこっちをチラ見しているのには気付いてない。麻里姉ぇもいないみたいだし、ち、ちゃんと作らないとあとで翔太さんに怒られますよ?
「……って、いつまでもここで話してるとケーキ食べれないよね。ごめんね二人とも」
「いえ、こちらこそ、お仕事の邪魔じゃなかったですか?」
星原さんから話しかけてきたとはいえ、話し込んでしまったのは事実だ。
その結果、星原さんの手を止めてしまったから、やっぱり早く話を切り上げてどこか席に着くべきだったな。
「相変わらず真人君は真面目だなぁ。キミがそんなこと気にする必要ないのに」
「あはは……」
「では空いているお席にどうぞ。注文はショートケーキとモンブランでよかった?」
「はい」
「それで大丈夫です」
翔太さんは俺たちと一部の常連さんのファーストオーダーは頭に入ってるって言ってたけど、まさか星原さんにまで覚えられているとは思わなかった。
もしかして、俺たちのはスタッフさんで共有でもされてるのか?
「真人、行こう」
「あ、ああ。わかった」
星原さんに手を振られながら、俺たちは厨房が見える席に着いた。
そしてその厨房を見ると、拓斗さんが翔太さんに注意されていた。
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