第567話 一緒にゴールを目指して
「大丈夫!?」
私は転んでいる、茶髪でセミロングの女子生徒のそばへ駆け寄ると、すぐさましゃがみこんだ。
「うう……いたい」
今にも泣きそうな声で痛みを訴えている。
おそらく、マラソン大会が嫌で、体力もなくなって転んでしまったから、なんでこんな目に……みたいに思って、ネガティブな思考が溢れてしまった結果なんだと思う。
私はこの人をなんとか座らせる。顔には外傷はないみたい。綺麗な顔してるから傷がなくて一安心。
「どこが痛いの?」
「胸の辺りと、右膝」
顔は咄嗟に腕でガードしたけど、顔から下は防ぎきれなかったみたい。
「とにかく今は早く学校に入って手当しないと。立てる?」
私は立ち上がって手を伸ばした。
「な、なんとか……」
そして彼女は私の手を取ってくれたので、引っ張って立ち上がらせたんだけど、やっぱり右膝が痛むのか、急に立ち上がったことによりバランスを崩した。
「危ない!」
私はそれを正面から受け止めた。
「あ、ありがと……」
「ううん。困ったときはお互い様だよ。肩貸すから頑張ろ」
私は彼女の右側に立ち、肩を貸した。
「ぜぇ……ぜぇ……」
その時、私たちの横をせとかちゃんが通り過ぎて行った。周りを気にする余裕がないくらい疲れているみたいで、私に気付くことはなかった。せとかちゃん、頑張って。
「このまま保健室に行っても大丈夫?」
「……あの」
けっこう痛がってるし、大会はリタイアしてこのまま保健室に直行したほうがいいと思ったんだけど、彼女は首を縦に振らなかった。
「どうしたの?」
「あたし……ゴールしたい」
「わかった。じゃあ行こっか」
「え? あ、あの……」
彼女の意思を尊重し、私はこのままゴールまで行こうとしたんだけど、彼女はなぜか言葉を詰まらせていた。
「どうしたの?」
「いや、先に行かないの?」
「一緒に行こうよ」
「……うん」
「私は西蓮寺綾奈。あなたは?」
「
「よろしくね金子さん」
「舞依でいいよ。……綾奈ちゃん」
「……うん! 舞依ちゃん!」
私はゆっくりと、舞依ちゃんの足が痛まないように慎重に歩き出した。
下り坂は本当に慎重に歩かないと、私がバランスを崩してしまったら一緒にこけちゃう。彼女の体重が私にのってくるから踏ん張らないと。
「今さらだけど、綾奈ちゃんはよかったの?」
「なにが?」
「その、あたしに肩を貸したら、もうビリなの確定なのに……」
なんだ、舞依ちゃんはそんなことを気にしていたんだ。
「……確かに私には、今日のマラソン大会で半分より前の順位でゴールするって目標があったよ」
「ならなんで? まだ可能性は残ってたかもしれないのに……」
「ペース配分を間違えちゃって、私もかなりバテてたし、それに……」
「……それに?」
「倒れている舞依ちゃんをそのままになんて出来なかった。確かに一度は舞依ちゃんをちょっと通り過ぎちゃったけど、真人なら……私の旦那様なら絶対に舞依ちゃんに手を貸すと思ったから」
私は正直に舞依ちゃんに手を貸した理由を話した。隠すほどのことでもないと思ったから。
「だ、旦那様? え? 綾奈ちゃん結婚してるの!?」
知らない人がいきなり『旦那様』って聞いたらそのリアクションをしちゃうよね。
「結婚出来る年齢じゃないからしてないけど、それでも婚約はしてるよ」
「……そういえばすごく可愛い同級生女子が結婚の約束をしてる相手がいるって聞いたことがあるけど……もしかして綾奈ちゃんが?」
「か、かわいいかどうかはさておき、私で合ってると思うよ」
自分でかわいいなんてわからないけど、真人はいつも『可愛い』って言ってくれる。それがすごく嬉しい。
「綾奈ちゃん、旦那のこと考えてる?」
「ふえっ!? ど、どうして?」
「すっごい幸せそうな笑顔をしてたから」
「あ、あぅ~……」
真人のことを考えると、自然と笑顔になっちゃうけど、ほぼ初対面の舞依ちゃんにまで見透かされるなんて……。
「いい人なんだね」
「……うん。とっても素敵で、私の大好きな人だよ」
「……」
私の言葉を聞いた舞依ちゃんは、そのまま黙ってしまった。ちょっとだけ眉を寄せて私を見てるけど、打った場所が痛むとか、そんな表情ではないと、なんとなく思う。
「……ねえ、綾奈ちゃん」
「なぁに?」
「助けてもらっておいて、こんなこと言うのはすごく申し訳ないと思ってるんだけど……」
「う、うん」
え? 何を言うのかな? わからないけど、どんなことを聞かれてもいいように、最低限心構えだけはしておこう。……ゴクリ。
「綾奈ちゃんはその……疲れないの?」
「……へ?」
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