第561話 脈はあるのか

「それでどうだろう? ここまでの話を聞いて、俺に可能性はあると思う?」

 拓斗さんと星原さんのエピソードを聞き終えた俺たちに、拓斗さんは真剣な顔で聞いてきた。

 可能性、か……。

「俺はあると思いますよ」

「僕も一哉と同じ意見です」

「脈がなかったらそんなイタズラめいたチョコをあげないでしょうし」

「それに嫌いな人に触りたいとは思わないですよ。ましてや口なんて」

「なあ」

「うん」

「……」

 一哉と健太郎の答えももっともだと思うし、俺も概ね二人と同意見だ。

 でも、これまでの話を聞いて、俺の中にある人物が浮かんでしまった。

「……真人君はそうは思ってないって感じだな」

「……え? いや、俺も脈はあると思ってますよ。ただ……」

「ただ?」

 さっきと反対で、今度は拓斗さんが聞き返してきた。

「拓斗さんと星原さんの話を聞いて、俺の中に茜と杏子姉ぇが浮かんでしまって……」

「真人君、それは一体……?」

「茜と杏子姉ぇって、昔っから俺にイタズラを仕掛けるのが好きだったんです。茜とは幼なじみだし、杏子姉ぇもいとこなので、拓斗さんと星原さんの関係とはまったく違うってわかってるんですけど、もしも星原さんがあの二人のような考えを持っているとしたら、それだけで拓斗さんに気があるって考えるのはちょっと早いかなって」

 俺とあの二人の間柄で、恋愛感情はまず間違いなくゼロだ。昔からそうだし、二人と再会した時も、驚きと懐かしさからの嬉しさしかなかった。

 茜の場合は幼少期からちょっかいをされすぎて恋愛感情が摘まれてしまったんだと思う。

 杏子姉ぇと再会した時は、俺は既に綾奈と婚約していたし、そもそもいとこのお姉ちゃんにそんな感情は湧かないしね。

「あまり楽観視をしすぎるのもダメってことだな」

「はい。……とはいえ俺も可能性がないとは思ってないです。むしろ高いって思ってますけど、なんにしても油断しない方がいいと思います」

 もうすぐ告白するって時に油断がどうのって言ってる場合ではないかもだけど、心構えだけはしっかりとしておいて損はないと思う。

「わかったよ。まあ俺も告白は成功するとはあまり思ってないからな。緊張はしてるけど油断なんてないさ」

「そうなんですね」

「ところで、星原さんが拓斗さんにどう接しているのかはわかりましたけど、逆に拓斗さんは星原さんと話をする時はどんな感じなんですか?」

 ああ、確かに。そこはまだ聞いてなかった。一哉はよくそれに気づいたな。

 拓斗さん側からも、星原さんと積極的にコミュニケーションを取り、それでいて楽しくおしゃべりが出来ているのなら、告白の成功率も上がるというもの。

 まあそこは心配するほどでもないと思ってるけどね。拓斗さんっていい人だし、自分からもこうやって気さくに話しかけてくれるから俺も話しやすいし。きっと星原さんにグイグイ……。

「…………」

 ……あれ? 拓斗さんが目を瞑り、眉を寄せて難しい表情をしてしまった。

「え?」

「た、拓斗さん?」

「ま、まさか……」

 嘘だよな? 千佳さんのお兄さんで、こんな陽キャの代表みたいな拓斗さんに限って、まさかそんな───

「その、俺から話しかけようとしたら緊張して、正直目も合わせられないというか……」

「「中学生か!!」」

「中学生みたいです……」

 マジか……ドゥー・ボヌールの、翔太さんに次ぐイケメン看板パティシエ(見習い)の拓斗さんが、驚くほどにウブだった。

 俺も中学の頃は綾奈とほとんど喋ったことがなかったから、拓斗さんの気持ちもめっちゃわかるんだけど、それで告白しようとしてるんだからすごいな。

 ちょっと前途多難だけど、とにかく拓斗さんの告白が成功するように、全力で祈ろう。

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