第560話 ロシアンチョコレートの結果は

「君たち俺とおんなじリアクションだな!」

 俺たちのツッコミを見て、拓斗さんはカラカラと笑っている。

「言いたくもなるでしょ!」

「てっきり本命チョコなのかと思ってしまった」

「確かに特別感はありますけど……」

 うん。健太郎の言うように、手が込んでいるからある意味では特別感はある。

 というかそもそもバレンタインにロシアンチョコレートをあげる発想がない。星原さん……美人で真面目な人なのに、普段はそんな感じなのかな?

「え? それで拓斗さんはそれを食べたんですか?」

「ああ、食べたよ」

 そりゃ好きな人からもらったチョコだもんな。一つタバスコが入っててもそれはそれだ。

「全部ですか?」

「まあ……うん」

「「「おお~」」」

 俺たちは拓斗さんに賞賛の拍手を送った。タバスコ入りまで自分から食べるなんて……辛いものがダメな俺からしたら既に拓斗さんは勇者の域だ。

「いや、食べたのは食べたよ。……望緒さんの前で」

「あ、星原さんもそこにいたんですね」

「『ここで食べろ』って言われて……多分タバスコ入りを食べた時のリアクションを見たかったのかもしれないな」

 これは……ただのイタズラ心なのか、それとも男子が好きな女子にちょっかいをかけるアレなのか……ちょっと判断に苦しむ。

「そ、それで、どうだったんですか?」


「五個食ったら全部普通に美味いチョコだったよ」


「「「…………」」」

 お笑い芸人じゃないけど、そこはタバスコ入りを引く流れなのでは?

 まあ、運もあるだろうけど。

 あ、そういや拓斗さんってタイミングが悪い人だった。

 それかもしくは、星原さんの誘導があからさますぎたのかもしれないな。仮にそうだとしたら、拓斗さんは男気を見せなかったわけになるけど。

「あれ? でもタバスコ入り、食べたんですよね?」

 そうだよ。ここまでの話ではタバスコ入りチョコを食べてない。え? まさか全部普通のチョコを食べた拓斗さんを見て不機嫌になった星原さんを見て、拓斗さんが慌ててそれも口に含んだのかな? だとしたらけっこうな男気だぞ!

「うん。望緒さんに半ば無理やりねじ込まれた」

「うわぁ……」

 拓斗さんにどうやってねじ込まれたのかを聞くと、星原さんがタバスコ入りのチョコを掴み、それをそのまま拓斗さんの口に運んだそうだ。星原さん……容赦ないな。

「そ、それで平気だったんですか?」

 そうだよ。星原さんの容赦ないタバスコ攻撃をくらったんだ。食べてしばらくは拓斗さんの口と喉は焼けるような辛さに見舞われたはず……。

「まあ、確かに辛かったけど、美緒さんは牛乳を用意してくれていたから、それを飲んでなんとかやり過ごせた」

 おお、牛乳救済措置が用意されていたとは……星原さん、やっぱり優しい人だな。

「ただ……」

「「ただ?」」

「……(ドキドキ)」

「望緒さんの手が俺の口に触れて、めっちゃドキドキした」

「「中学生か!」」

「あはは……」

 年上の人にまたもツッコミを入れてしまった。

 拓斗さん……恋愛慣れしてそうな印象なのにめっちゃウブじゃない?

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