第557話 拓斗は馴れ初めを聞きたい
作業開始からしばらく経過し、今は冷蔵庫で生地を寝かせている。
ちなみに作っているのは一哉と健太郎がチョコレート、そして俺はみんなにはクッキーと……綾奈には別の物をを作っている。
「よかったら真人君と一哉君も彼女との馴れ初めを聞かせてくれないか?」
「「え?」」
少し談笑をしていると、拓斗さんからそんなことを頼まれた。『も』ってことは、健太郎には既に聞いているってことだよな。
「これからの参考にしたいんだよ」
つまりは星原さんとのあれこれか。
「俺はいいですよ」
聞かれて困る内容でもないしな。
というか綾奈からは聞いてなかったんだな。拓斗さんは俺より綾奈との付き合いは長いから聞いてるもんだと思ってた。
「俺もいいですよ。というか真人のは参考にならないと思いますけど」
「どういう意味だよ!?」
話す前から失礼なやつだなこの親友は。
「お前らは中学の頃から両想いだったし、拓斗さんの参考になるか……」
「え? マジか! 真人君、ちょっと聞かせてくれないか?」
拓斗さんがめちゃくちゃ食いついてきた。こんな反応をするのはちょっと意外だ。
「ほら見ろ一哉。拓斗さんは聞きたがってるじゃないか」
「単純に興味があるからだろ」
「揚げ足取るなよ……」
まあ確かに、小さい頃からずっと見てきた妹みたいな存在の綾奈と俺の馴れ初め……というか、どういう経緯で付き合うまで至ったとかは気になるだろうな。
俺ももし拓斗さんの立場なら、美奈や茉子のそういうのは気になる。
「まあまあ……真人君、聞かせてくれよ」
「いいですよ。えっと……」
俺は拓斗さんに綾奈と付き合うまでの経緯を話し始めた。
綾奈を好きになったのは中三の秋頃、綾奈と仲良くなりたくてとりあえずダイエットをしたこと、お互いほとんど話をしたことなくそのまま卒業したこと、夏休みの合唱コンクールで再会、二学期の始業式終わりに千佳さんにファミレスに連れられ、そこで待っていた綾奈にボディーガードとして一緒に下校してほしいと頼まれたことを……。
「へえ……千佳のヤツがそんなことを……」
「はい。だから千佳さんがいなかったら、俺たちは今でも付き合ってたかどうかも怪しいので、マジで千佳さんには感謝してるんです」
拓斗さんのこの反応……マジで千佳さんからは何も聞かされてなかったみたいだな。
「というか拓斗さんは、真人と綾奈さんが付き合い出したのを知ったのはいつなんです?」
「去年の十月の終わり頃だったかな? 千佳がさらっと『彼氏出来た』って言って、その後に『綾奈にも彼氏が出来たよ』ってね」
「あはは……千佳らしいというか」
すごく真面目な千佳さんだけど、普段の性格はサッパリしてるから、拓斗さんへの報告もすごいさらっとだったんだな。
「それで拓斗さん。なにか参考になりましたか?」
まあまあかいつまんで話したんだけど、これで星原さんへの告白の参考になるかな? ちょっとでも力になれたら嬉しいけど。
「ん~……真人君と綾奈ちゃんはマジで両片想いで、俺みたいなケースとは違うな……」
どうやらあまり参考にならなかったようだ。こればかりは聞き手次第になるからこの結果もやむなしだ。
「やっぱりな。参考にならなかったな」
「……というかお前と茜もわりと似たようなもんだろ」
はじめて会った時から一哉と茜は意気投合……というか俺の話で盛り上がってたし、今思えば一哉が最初から茜が好きってオーラが出ていたようにも思えたしな。
「ねえ一哉。僕も二人の馴れ初めは聞いたことがなかったから知りたいな」
「俺も聞きたい。一哉君、よかったら聞かせてくれないか?」
「いいですよ」
一哉は「ごほん」と咳払いを一つして、ゆっくりと茜と出会った時のことを語りだし、俺はその時の光景を思い出していた。
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