第556話 思いを告げるための、本気のお返しを
「
星原望緒さんはドゥー・ボヌールで働くフロア担当の女性スタッフさんだ。俺も松木夫妻と拓斗さん以外だと星原さんと一番おしゃべりをしているから知っている。
星原さんは長いダークブラウンの髪をお団子にして仕事をしている清楚系美人さんだ。雛先輩の卒業パーティーではじめて下の名前を知ったんだけど。
「もしかして、あの時星原さんに連行される際、拓斗さんが大人しかったのって、翔太さんが怖かったわけじゃなくて、星原さんだったから!?」
杏子姉ぇの歓迎パーティーでは、麻里姉ぇに襟を引っ張られている時、まだその場を離れたくなさそうにしていたけど、雛先輩の卒業パーティーの時は星原さんだったからあんなに大人しかったのか。まぁ、麻里姉ぇの時は杏子姉ぇにサインを貰い損ねたからっていうのも理由の一つなんだろうけど。
「まぁ、翔太さんが怖かったのもあるけど、一番はそれかな」
拓斗さんは「あはは……」と苦笑いをした。
好きな人に連行されるなら……ちょっとでも一緒にいられるのなら、怖い人の元へ向かうとしても従ってしまうんだな。
俺も、そうだな。拓斗さんと同じ立場だったら、綾奈と一秒でも長くいられるのならついて行くかもしれない。
「あれ? でもお返しを本気で作るって……もしかして拓斗さん……!」
俺は一哉のその言葉で少し遅れて理解した。
そうだよ。たとえ意中の人にお返しをするのなら、他の人よりちょっと特別感を出せばすむことだ。
なのに本気で作るということは……。
「ああ……望緒さんに告ろうと思ってる」
「「!!」」
やっぱり。
じゃなかったら本気でなんて作らな……いや、拓斗さんの場合は自分の職業もあるからどちらにしても妥協はしない一品をつくりそうだ。
「健太郎は驚いてないな」
俺と一哉はめっちゃびっくりしているのに、健太郎だけは笑顔だ。もしかして……。
「僕は以前に拓斗さんから聞いてるから」
「やっぱり」
そうだと思った。じゃなけりゃ彼女のお兄さんの恋愛事情を聞いて驚かないなんてありえない。
「さすが未来の義兄弟」
俺たちの知らないところで、色々と恋愛相談を受けていたのかもしれないな。
「一哉君はそう言ってるが、健太郎君。マジで千佳でいいのか?」
拓斗さんはなぜか確認してるけど、千佳さんは絶対に優良物件だと思う。美人でスタイルが良くて友達思いで礼儀もめっちゃ正しい。綾奈と一緒で非の打ち所なんてないと思う。
というか拓斗さん……これ、もし千佳さんに聞かれたら絶対にあとが怖いやつですよ。
「そうですね。少なくとも僕から離れることはないですよ」
言い切った。『と思います』ではなく断言した健太郎。さすが一目惚れだ。
「健太郎君はマジでいい子だな! 真人君と一哉君も理想の彼女を見つけてるし、俺も頑張らないと!」
「頑張ってください拓斗さん」
「応援してます」
「俺も……っというか、星原さんって今フリーなんですか?」
俺もそこは気になっていた部分だったけど、一哉が質問してくれた。でもフリーじゃなかったら告白しなくないか?
「今年に入ってから一年以上付き合っていた彼氏と別れたって言ってたんだよ」
星原さん、彼氏いたんだ。あれだけ美人さんで気さくな人だから、まぁ当然か。
「別れた時はめっちゃ落ち込んでてな。そんでも最近『彼氏欲しい』って言ってて……」
「それで告白しようと」
拓斗さんはコクっと頷いた。
今年に入ってからってことは、俺が綾奈のバースデーガトーショコラを作った時はどうだったんだろう? 見た感じ元気だったけど。仕事だからそういう感情を表に出さなかったのかな? 俺だったら……絶対無理だ。
「ど、どうした真人君!?」
「え? ああ……さっきの話で、ちょっと綾奈と別れる想像をしちゃって」
考えるのはやめよう。冗談抜きに怖すぎる!
「それ、お前らが一番ありえないだろ」
「うんうん」
「だな」
「みんな……ありがとうございます」
俺もありえないことだとは思ってるけど、それでも綾奈が俺の隣にいてくれることを当たり前じゃなく特別と思うようにしないとな。
話が一区切りついたところで準備をし、いよいよお菓子作りがスタートした。
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