第553話 真人の提案

 日曜日の早朝、この日も綾奈と早朝のランニングをし、いつもの公園で一休みをしていた。

「綾奈、すっかり体力がついたよね」

 最初のうちは、ここに来るまでに既に体力が尽きてヘロヘロだったのに、今ではちょっと息が上がる程度になっている。二ヶ月近く毎日走っていたら、そりゃあ体力がつくよな。

「ありがとう真人。だけど真人もじゃない?」

「まあね」

 綾奈が言うように、俺も息があまり上がっていない。綾奈よりも長距離を走っているから当然だけど。

「私ももう少し走る距離伸ばそうかな?」

「いいけど少しずつね。いきなりめちゃくちゃ伸ばしたら怪我するかもしれないし」

 普段よりも長い距離を走って、体力が尽きたら走るフォームも乱れ、その結果怪我に繋がりかねないからな。綾奈が距離を伸ばしたいというのなら俺も付き合うし、ちゃんと怪我しないように見てないとな。綾奈って案外無茶しようとするから……。

「そういえば綾奈の学校、マラソン大会って明日だっけ?」

「うん。明日の午前中……答案がかえってきたあとだよ」

 高崎高校にマラソン大会があるというのは、一緒にランニングを始めてから少し経ってから教えてもらった。

 それにしても、普通に答えたな。もしランニングをしてない状態の綾奈にさっきの質問をしたら、きっと肩を落として力なく「うん」と言ってたろうな。もはや一種の禁止ワードのように。

 本当、見違える進歩だよな。

「どれくらいの距離を走るの?」

「えっと、全長一キロくらいの学校の外周を男子が三周、女子が二周走るよ」

「つまりは約二キロか……」

 綾奈の家からここまでが約一キロだから、いつも走っている距離とほぼ一緒か。

「うん。普段から走っている距離だから、もしかしたらいい順位でゴールできるかも」

「でもいつもここで一休みしてるからね。ノンストップで二キロ走ったことがほとんどないから、ペース配分が重要になってくるね」

 たま~にだけど、ちょっとの休憩でまたランニング再開する時もあるけど、大概ここで休憩がてらイチャイチャしているから、いくら体力がついたとはいえ、いつのもペースで二キロをぶっ通しで走れるかと言われればわからない。

 もしも上位を目指すのなら、冷静に、自分の走りをすることが一番重要になってくる。千佳さんや江口さんのような、俺たちより体力がある人と一緒に走ったら、あっという間にこちらのスタミナが枯渇してしまう。

「自分の走りを最後まですれば大丈夫ってことだね」

「そういうこと。頑張ってね綾奈」

「うん! えへへ~♡」

 エールも兼ねて綾奈の頭を撫でると、綾奈はふにゃっとした笑みを見せてくれた。

 でもそっか。明日がマラソン大会なら……。

「ねえ綾奈」

「なあに?」

「明日はこのランニング、なしにしようか?」

「……え?」

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