第549話 テスト明け、イチャイチャ全解禁

 テストの全日程が終わった三月十日の金曜日の放課後。

 放課後といってもまだお昼なんだけど、綾奈と高崎高校の駅で合流し、そのまま綾奈の家にお邪魔した。

 実は明奈さんに昼食はお呼ばれされていたのだ。『勉強を頑張ってたから』って言ってたけど、明奈さん、俺に甘すぎない?

 まぁ、今日はテスト終わったらここに来ることは何日か前に伝えていたけど、もちろんお昼をご馳走してもらう気は全くなかった。

 ここに来た目的はテストの自己採点を綾奈と一緒にするのと……あと、テストが終わったから、自分たちで設けたイチャイチャ制限の解除日だから……うん、まぁそんな感じだ。

 俺たちがリビングに入ると、明奈さんはちょうどキッチンで昼食を作ってくれている最中で、フライパンを使って何かを炒めていた。

「あら、おかえりなさい綾奈、真人君」

「お母さんただいま」

「た、ただいまです明奈さん」

「もう少しで出来るから、二人とも手を洗っていらっしゃい」

 俺と綾奈は明奈さんに返事をして、洗面台へと移動し、手を洗う。

 あの匂い、焼きそばかな? 明奈さんの作る料理はどれも絶品だから楽しみだな。

「楽しみだね綾奈」

「へっ!? う、うん……」

 綾奈は手を洗いながら考えごとをしていたらしく、俺の話を聞いていないような反応を見せた。

 綾奈のこの反応……実はこれが初めてではなく、駅で合流してからここに帰ってくるまでの間も、綾奈はこうやって考えごとをしていた。

 さっき明奈さんにただいまを言って時は普通だったのに……やたら顔が赤いけど、一体何を考えてるんだろう?

 はっ! まさか、テストが終わって、気兼ねなくイチャイチャが出来ると思って、それでドキドキしてるのかな?

 つまり、お昼を食べたら、綾奈も俺とイチャイチャしたいって思ってるってことなのかな?

 イチャイチャする時は綾奈からの方が多いから、きっとそうだ。

 テスト中も早朝ランニングや登校、放課後の勉強で毎日会っていたけど、今週はキスもしてないから、久しぶりにキスが出来ると思って、綾奈もドキドキしてるんだ。

 そう考えると、なんか俺もドキドキしてきた。

 それを顔に出さないよう、あえて冷水で手を洗い、『冷たい』以外の思考を追い出す。

 手を洗い終えると、焼きそばのこと、もうすぐ欲しいラノベの新刊が出ることなど、常に何かしら考えながら明奈さんの作ってくれた焼きそばを食べた。当然ながら、その焼きそばはめちゃくちゃ美味しかった。


 昼食を食べ終え、綾奈の部屋で今回のテストの自己採点をお互いにやったんだけど、今回もけっこう上位に食い込めそうだ。綾奈も手応えがあったのか、表情が明るい。もしかして今回も学年一位をとるんじゃないか?


 そして自己採点を終え、綾奈のベッドを背もたれにして座っていると、綾奈もすぐそばに座った。

 やっぱり顔が赤いので、今からイチャイチャすると思って、いつも以上にドキドキしているっぽい。

 俺は綾奈の手に、そっと自分の手を重ねる……。

「っ!」

 すると、綾奈の肩がビクッと跳ねた。

 今日も手を繋ぎながら登下校したし、いつもならここでふにゃっとした笑みを見せてくれるんだけど……。

「ね、ねえ……ましゃと」

「ん? ……んん?」

 え? このタイミングで「ましゃと」呼び?

 綾奈が舌足らずに俺の名を呼ぶのって、大体がの話で限界まで照れた時やテンパっている時とか、泣いている時なんだけど、今の綾奈の状態からして、間違いなく照れ……だよな?

「ま、ましゃとってその、えっと……うぅ~」

 なんだなんだ? 言いづらいことでもお願いするつもりなのかな? 限界まで照れてる綾奈の言いづらいお願いって……な、なんだろう? マジでわからんけど俺もめちゃくちゃドキドキしてきた。

「と、とりあえず落ち着こう。はい、深呼吸して」

 俺がそう言うと、綾奈は二度ほど深呼吸をした。だけど依然として顔が赤い。

 だけど意を決した表情をしているので、ついに言うみたいだ。俺の鼓動も早くなる。


「ま、ましゃとは…………私のおっぱい、触りたいの?」


「………………はえ?」

 あまりに予想だにしなかった綾奈の言葉に、俺の脳は理解するのに十秒ほど要した。

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