第543話 チョロイン綾奈さん

 美奈ちゃんと一緒に浴室に入った私は、シャワーでお互いの身体を濡らし、美奈ちゃんのリクエストで背中を流しっこをしてから、揃って浴槽へ入った。

 二人で入ったから、浴槽に張られていたお湯がすごい勢いで流れ出てしまう。これはあとでお湯を足さないと真人が困ってしまう。

 そして対面で浸かっていると足が伸ばせないということで、美奈ちゃんが私の身体を背もたれにする体勢に変えた。

 いつもは私が美奈ちゃんのポジションで、真人にやってもらっていたからちょっと不思議な感じ。

 真人がお風呂から上がって、髪を乾かしたら、私も真人にお願いしてみようかな?

 ……えへへ、旦那様に包まれるように後ろから抱きしめてもらうんだ~♡

 私はそんな妄想をしてドキドキしていた。

「お義姉ちゃん、にやにやしてどうしたの?」

「ふぇっ!?」

 美奈ちゃんが横目で私を見ていたらしく、私は妄想の世界から強制帰還を果たしていた。

 わ、私、にやにやしちゃってた!?

 私は自分の頬をぺたぺた触れると、確かに口角が上がってた。

「お兄ちゃんとえっちなことをしてる妄想してたんでしょ~?」

「し、してないから! ……えっちなことは」

 私は妄想していた内容を美奈ちゃんに告げると、美奈ちゃんは「あ、わりと普通だった」って言った。

 この子の中の私と真人は、一体どんなことをしてるの!?

「そもそも今回のお泊まりはあくまで勉強がメインなんだから、過度なイチャイチャはしないようにしてるんだよ」

「え、そうなの?」

「うん。イチャイチャしすぎるとそればっかり意識しちゃって効率落としそうだから……」

 二学期末のテストでは、会う時間を極端に減らしてしまって勉強効率を落としてしまった。かといってイチャイチャしすぎると、お互いそればっかり意識しちゃって逆に勉強どころではなくなってしまいそうだから、このお泊まりではそこまでイチャイチャしないようにしようって事前に夕食前に真人と話し合って決めていた。

 一緒にお風呂に入ろうとしたのは……そう、最上級のリラックス、そしてリフレッシュタイムが欲しかったから。

 勉強での疲れや問題が解けなくて沈んだ気持ちも一気に消し飛ばせるからだったんだけど、それが叶わなくなったから、真人に癒してもらおう。

「てっきりこのおっぱいでお兄ちゃんを骨抜きにするのかと思ったのに」

 美奈ちゃんはそう言いながら、私の身体にもたれかかっている力に緩急をつけてきたので、私の胸が忙しく形を変えている。お湯もちゃぷちゃぷと波打っている。

「も、もう美奈ちゃん! そんなことするのならもうしてあげないよ!?」

 美奈ちゃんも私とお風呂に入れてテンションが上がっているのはわかるんだけど、こっちが恥ずかしくなるようなセリフをいっぱい言ってくるから、ちょっと見過ごせなくなっちゃった。

「あぁ……! ごめんなさい」

 すると美奈ちゃんは素直に謝ってきて、緩急をつけるのも止めてくれた。

 こういう素直な部分も美奈ちゃんの……私の義妹のかわいいところだなぁ。

「お義姉ちゃんキレると本当に怖いから、やりすぎないようにしないと……」

「こ、怖いかなぁ?」

 美奈ちゃんの前で怒ったことってあったかな?

 私は美奈ちゃんと出会った時から最近までの記憶を辿る。

「横水にキレた時はマジで怖かったし、お兄ちゃんにもお義姉ちゃんをマジでキレさせたらダメって言われてるから……」

「何言ってるの真人!?」

 今年の初詣の時の横水君との件を思い出していた私だけど、真人が美奈ちゃんにそんなことを言っていたのがびっくりすぎて、初詣の件が私の頭の中で泡となって消えた。

 た、確かに真人の前で本気で怒ったことも何度かあるけど……旦那様にそんな風に思われていたなんて……うぅ。

「あ、でも「俺のためにキレてくれたから嬉しかった」とも言ってたよ」

「真人……えへへ♡」

 美奈ちゃんから、真人が言っていた言葉を聞いて、私は自然と笑顔になっていた。

 そりゃあ、真人は世界で一番大好きで大切な旦那様だもん。

 いつだって誰にでも優しい真人をよく知らずにバカにする人はやっぱり許せないもん。

 いつか思った、『真人を守れる自分』になりたい……少しはそうなれていると嬉しいな。

「……チョロい」

「なにか言った?」

「いーえなにも!!」

「?」

 おかしいなぁ……確かに美奈ちゃんからボソッとなにか聞こえた気がしたんだけど。少し強い風が吹いて窓がガタガタ揺れたり、美奈ちゃんが動いた時に出たちゃぷちゃぷという水の音でよく聞き取れなかったけど……ま、いっか。

 それからも美奈ちゃんと楽しくおしゃべりしながらお風呂に入り、ちょっとのぼせ気味になってからお風呂から出るのだった。

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