第536話 真人と中村、サシでの話し合い

「……!」

 目を見開いて驚く中村に、俺は「本当に結婚はしてないけどな」と付け加えた。

 俺たちが結婚出来ない年齢なのは、中村だってわかってるはずだけど、一応、ね。

「なあ中村。お前、もしかしてまだ綾奈が好きなのか?」

 さっきの中村の質問の意図がわからないままだけど、綾奈に気がなければそんなことは聞いてこないはずだ。やっぱり中村は諦めが悪いのか?

「……わかんねえ」

 警戒した俺だけど、中村の回答はなんともモヤッとするものだった。

「わからないって……」

「今もってだけじゃなく、中学から本当に西蓮寺が好きだったのかも……な」

「……どういうことだ?」

 中学の頃は、綾奈と中村の間には付き合っているのでは? という噂が絶えなかった。当時の学校一のイケメンと美少女が共に生徒会で活動していたし、二人が揃って廊下を歩けばみんな二人を見ていた。その頃の俺は綾奈に惚れてなかったので、特になんとも思ってなかった。

 中三の二学期……十一月に生徒会がやった人権問題に関する劇で、綾奈が中村に告白したシーンはちょっと歓声も上がってたな。この頃には綾奈に惚れていたから、芝居とはいえめっちゃ焦ったけど。

 だけど中村は確か、綾奈に何度も告ってるって聞いたけど、その時も綾奈を好きではなかったのか?

「去年お前らと再会して、西蓮寺に強烈な言葉とビンタをもらってから、ずっと頭ん中がぐるぐるしてんだ。……人を好きになるって、なんだろうなって思ってな」

「中村……」

「俺はこれまで、自分が可愛いと思った女にはめちゃくちゃ声をかけて、その逆もめちゃくちゃあって、そして付き合ってきた。年上だろうが年下だろうがな」

「お、おう……」

 どういうリアクションをしたらいいか悩む話だな……。

「だけど、少ししたら興味を引かれなくなってな。それで別れてすぐ次の女と付き合ってた」

「……」

 それが中村が取っかえ引っ変えしてた理由か。褒められたことじゃないけど、それでも二股してなかったのは中村の女性に対しての誠実さ、みたいなのがあったからなのかもしれないな。

「最近までは特に何も思わなかったんだよ。いい女と付き合って、ヤッて、飽きたら別れて……それが普通のことなんだってな」

 ……前言撤回してもいいかな? やっぱり誠実さなんてなかったんじゃ……。

「でも西蓮寺が……あの大人しい西蓮寺が俺にキレて、公衆の面前であんなに叫んで、お前にキスをしている所を見て、あとから思ったんだよ。俺はどうなんだって、な」

「どうなんだって……何が?」

「もし俺があの時、西蓮寺の立場だったら、同じように自分の女を罵倒する男に殴りに行けたのかって……」

 もしかして中村は……。

「なあ中村」

「なんだ?」

「お前、人を心から好きになったことって、あるのか?」

「……わかんねえ」

 最悪『ない』って答えを予想していたんだけど、マジでわからないって顔をして空を見上げいるな。

 付き合った人が多すぎて記憶も曖昧にって感じでもなさそうだ。

「中筋、お前といる時の西蓮寺って、どんなだ?」

「俺といる時の綾奈?」

「ああ。教えてくれ」

 真っ直ぐに俺を見る真剣な眼差し。本気みたいだな。

 俺は目を瞑り、軽く息を吐いて、そして息を吸い込み、目を開けた。

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