第534話 中村、再び
「「「…………」」」
俺と綾奈、そして中村は意外な再会にお互いを見て沈黙していた。
まさか、ファミレスをテスト勉強の場所に選んだ今日に限ってなんで中村がここに来るんだよ。
こいつ、まさかまだ綾奈を狙っているのか?
「え? なに? 圭介と知り合い?」
「なら好都合じゃん。君らも旧友と再会で積もる話もあるんじゃない? やっぱり一緒にお茶しようぜ」
積もる話なんてないって。もしも積もっているのもがあるとすれば、それは恨みだ。俺にはないけど。
綾奈は中村の登場で、さらに警戒心を強めたのか、俺の腕に抱きついて中村を睨んでいる。
普段、人に恨みなんて抱かない綾奈だけど、あのゲーセンで中村が俺に浴びせた罵声をまだ根に持っているのかもしれないな。
「なあ圭介。お前この二人と同中?」
「あ、ああ……。俺が生徒会長で、西蓮寺……女子の方は副会長だった」
「マジか!? そんな二人が再会ってすごい偶然だな!」
そうかな? 違う高校に通っていても再会する時はするから、別に『凄い』は付かないんじゃ……?
「この二人の再会を祝して、俺たちは隣の席に座ろうぜ。いろいろお話しようよ西蓮寺さん」
中村を除いた三人が勝手に決めだした。いやそれより俺は無視かよ!
ヤバいな。俺を無視された綾奈が怒りかねない。現に綾奈は今、俯いていて、その表情を見れないけど、これは明らかに怒っている。
「あ、綾奈……」
「俺たちは向こうに座ろうぜ!」
「「え?」」
綾奈をなだめようとしたら、中村がまさかの提案をして、俺と綾奈は本気で驚いた。
「は? ちょ、圭介!?」
「どうしたんだよ?」
「いいから! ……悪いなお前ら」
「「…………」」
中村は既に座っていた友人の腕を引っ張って立たせ、そいつらの背中を押して俺たちから離れていった。
俺と綾奈は、それを呆然と見ていた。
ど、どうしたんだ? あのゲーセンで再会した時の中村なら、あいつらと一緒に席に座って、俺がいるのも関係なしに無遠慮に綾奈に声をかけていたはずだ。
綾奈のビンタが相当こたえたのか、はたまた店長の磯浦さんに出禁を言い渡された時の光景が蘇ったのか……。
「中村君、どうしたんだろう?」
「さあ……?」
綾奈も不思議に思っているみたいだ。
ゲーセンで再会した時、中村の本性を……あいつの裏の性格を見たからこその疑問、なんだろうな。
「とにかく、勉強どころじゃなくなったから、出ようか」
「うん」
これ以上ここにいても勉強に身が入らないと判断した俺は、綾奈に退店を促すと、綾奈は静かに頷いた。
勉強道具を片付け、丸められている伝票を取ると、綾奈は「あ……」と言った。
綾奈を見ると、綾奈の手も伝票に伸びていた。
「ここは俺が出すよ」
「で、でも……」
「ドリンクバーとポテトだけだから安いもんさ。それに、綾奈にはちょっと嫌な思いをさせちゃったからさ」
俺がここを選ばなければ、中村と会うこともなかったから……。
「嫌な思いなんて……。なら、次は私が出すからね」
「わかったよ」
女性に全額出させるのもな……って思ったけど、これも支え合いと思うことにしよう。
「じゃあ行こうか」
「うん」
俺たちは手を繋いでレジへと向かった。
離れた席でじっと俺たちを見ていた中村たちの視線を受けながら……。
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