第533話 ファミレスで勉強をしていると……

 雛先輩の卒業パーティーの翌日の三月二日、木曜日の放課後。

 この日も綾奈と一緒にテスト勉強に勤しんでいた。

 だけど、今いるのは綾奈の家ではない。そして俺の家でもない。

 俺たちは今日、気分を変えるためにファミレスに来ていた。

 綾奈の部屋でもちゃんと勉強はしているのだけど、やっぱり時間が経つと集中力が切れてきて、イチャイチャしたいと思うようになってしまう。

 実際にイチャイチャしていると、つい時間を忘れて気付いたら空が暗くなっていた……なんてこともこの約二週間で三度ほどあった。

 来週はテストで、明日からの土日は綾奈が俺の家に泊まりに来て勉強するのだけど、どうしてもイチャイチャしたいって気持ちは出てしまう。

 だけどこういった公共の場では、イチャイチャしたくても大っぴらには出来ないので、その分集中力も持続すると考えて、今日はファミレスに来たのだ。

 ドリンクバーとポテトだけで長時間居座るのはちょっと申し訳ないとは思いながら、でも夕方は利用客も少ないから許してくれるだろう。

 店内のゆったりしたBGMを聴きながらシャーペンを走らせる俺と綾奈。

 時折、ジュースを飲んだり、ポテトをつまみながら、だけど勉強中はお互い喋らずに黙々と手だけを動かしている。

 同時にジュースを飲むタイミングがあれば、にこっと笑いあったりして、それだけでまたやる気がみなぎっていた。

 これいいな。二年になったら、テスト勉強の時はたまにファミレスを利用しようかな? あとで綾奈に相談してみよう。

 あ、図書館でもいいな。確か健太郎と千佳さんはよく図書館で一緒に勉強してるって聞くしな。

 集中出来るわからないけど、みんな誘って勉強会を開くってのもアリかもしれない。

 進級したらマジで企画してみようかな?

 そんなことを考えながら、楽しく勉強をしていると、来店客を告げる軽快な音が聞こえてきた。

 それと同時に、若い男数人の話し声も……。

 気になって入り口付近を見ると、風見高校や高崎高校とは違った制服を着た男子三人組がいた。しかも全員イケメン……。

 この陽キャ集団、雰囲気から察するに、ここに勉強しに来たってわけではなさそうだ。

 う~ん。ちょっとタイミングが悪い時に来てしまったな。こんなことなら図書館を選んでいたら良かったかも……。

 どうやら綾奈も気になったらしく、手を止めてそのイケメン集団を見た。

「ごめん綾奈。集中出来ないよね?」

「謝らないで。真人のせいじゃないんだから」

 綾奈はふるふると首を振り、俺に優しい笑顔を見せ、言葉をかけてくれた。

 こんなに優しいお嫁さんを持てて俺は幸せだ。

 俺も自然と笑顔になったあと、再びそのイケメンたちを見ると、彼らもこっちを見ていた。しかも笑顔でヒソヒソと話している。

 ……嫌な予感しかしない。というかこの後の展開がなんとなく読めた。

 俺は綾奈と対面で座っていたのだが、そこから腰を上げ、綾奈の隣に座り直した。

「真人?」

 綾奈は俺に声をかけたが、あいつらの行動を警戒している俺は、それには応えず綾奈の手を握った。

 二人っきりでいることで察してくると思うんだけど、たまにこういう空気の読めないヤツがいるんだよなぁ。誰かとは言わないけど。

 そいつらはゆっくりとこちらに近づいてくる。空いている席がいっぱいあるんだから、もっと離れた席に座ればいいのにと思いながら、俺の予想はほぼ当たったと思った。

 そしてそいつらは俺たちの席のそばで立ち止まり、こちらを見た。

「ねえ、君ら勉強終わった?」

「「え?」」

 いきなりナンパしてくると思った俺はついぽかんとしてしまった。

 な、なんだ? なんでそんなことを聞いてくるんだ? 関係ないだろ?

「終わったなら俺らと一緒にどう? もちろん彼も一緒に」

「な……」

 俺も一緒に!? 何考えてるんだこいつら?

 普通、こういう場面なら俺は邪魔じゃないのか?

「オレら単純に君らとお近付きになりたいわけ。ね? 良かったら一緒にどうよ?」

「あ、あの……」

「…………」

『一緒に』なんてよく言えたものだな。俺の方をちっとも見てないくせに。

 なるほど。ちょっとびっくりしたけど、こいつらの魂胆がわかったぞ。

 俺も一緒に誘えば、綾奈は一緒にお茶してくれるって思って声をかけたんだ。そしてどうにかして俺を綾奈から引き剥がすってところか。

「ちなみにもう一人来るんだけど、そいつはかなりのイケメンだよ」

「オレらもそうだけど、あとから来るやつはマジなやつ。ね? 面白いやつだからさ」

 こいつら、既に俺を見ていない。計画が杜撰ずさんなのか、俺も誘うという名目は果たせたと思っているのか……。

 綾奈も最初は戸惑っていたけど、こいつらの目的がわかったのか、眉を吊り上げている。

「すみませんけど、私は───」

「あ、来たぜ」

 綾奈が断ろうとしたのとほぼ同時に、またも来店を告げる音楽が鳴った。

「なっ……!」

「え!?」

 そして、こいつらの連れと思われるイケメンを見て、俺と綾奈は驚いた。

「っ! ……さ、西蓮寺」

 そしてそのイケメンも、俺たちを見て驚き、そして気まずそうに顔をしかめた。

「……中村」

 そのイケメンは、出来れば会いたくなかった元同級生で、中学三年の頃の生徒会長、中村圭介だった。

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