第532話 バレンタインのお返しは手作りで

 卒業パーティーが始まってからしばらく、俺は雛先輩にどうしても聞いておかなければならないことがあったので聞くことにした。

「ところで雛先輩」

「どうしたの~真人君?」

「雛先輩って、いつまでこっちにいられるんですか?」

「え……?」

 俺はずっとそれが聞きたかったんだけど……なんか雛先輩、頬を赤くしてる。

 え? そんなリアクションをするような質問はしてないはずなんだけど。

「ど、どうしたんですか雛先輩?」

「えっと、その……ま、真人君が、私が遠くに行ってほしくないと思ってくれてるって解釈しちゃって……」

 な、なるほどそれでか。

 確かにさっきの質問だと、そう捉えてしまうよな。実際間違いでもないんだけど。

 てか、杏子姉ぇと茜がにやにやしているのが気になる。

「ま、まぁ……間違いではないですけど」

「ま、真人君……」

 いや、さらに頬を染めて感動しないでくださいよ。

「と、というかそれはここにいる全員が思ってることですから。杏子姉ぇだって、学校で雛先輩に抱きついてたでしょ?」

 みんな雛先輩が遠くに行ってしまうのを惜しんでいるんだ。俺だけが……なんてことはありえない。

 第一、もし万が一そうだったら、みんなここに集まらないだろう。

「そういえばマサ。アヤちゃんに、してもらったの?」

「ちょっと黙っててもらえる杏子姉ぇ!?」

 ここでそれを蒸し返さないで。話が進まなくなるし俺も頬が熱くなるから!

「杏子さん。なんの話ですか?」

「それはマサに教えてもらうことだね~」

「教えないから! ……今はまだ」

「?」

 この場では絶対に言えない。美奈や茉子だっているんだぞ!?

 それ以前に恥ずかしすぎるから綾奈と二人っきりじゃないと絶対に言えない。二人っきりでもかなりの勇気がいるけど。

 一哉と健太郎は苦笑いをしているので、俺の心情を察してくれているみたいだ。

 というかこれ以上余計な茶々を入れられる前に質問した理由を言ったほうが吉だ。

「その……バレンタインのお返し、渡したいですから。もしその日までに向こうに行ってしまったら、渡すの難しくなってしまいますから……」

 俺はホワイトデーの三月十四日までに、雛先輩がここから離れるのではないかというのを懸念していた。

 せっかく雛先輩からバレンタインのチョコを貰ったのに、それを返せないなんてのは嫌だったから。

「真人ではないですが、それは俺も思ってました。雛先輩、ホワイトデーはまだこっちにいますよね?」

 お、一哉がフォローしてくれた。さすが親友。

「ええ。ホワイトデーはまだこっちにいるわ~。月末に向こうに行くつもりよ~」

「そうですか……」

 つまりあと約 一月ひとつきはこっちにいるんだな。

「もしかして、手作りをいただけるのかしら~?」

「そ、それはまだわからないです。なのであまり過度な期待はしないでいただけると……」

 綾奈の誕生日にガトーショコラを作れたのは、翔太さんがドゥー・ボヌールの厨房を使わせてくれたからだ。

 家のキッチンを使わせてもらえれば作れないこともないかもしれないが、使えるかわからないし、それにまだ何を作るかも決めてない状況だ。

 テストが終わったら、急いでそれを決めないといけないな。

「ふふ、じゃあ楽しみに待ってるわね~」

「え? あ、あの、雛先輩?」

 もしかして、手作りを期待しちゃってます?

「マサ、私も手作りでお願いね」

「もちろん私もね」

 高校二年の二人組も便乗してきやがった。

「綾奈ちゃんも真人の手作りのお返し、欲しいよね?」

 そこで綾奈に振るなよ茜!

「え? えっと……うん」

 ほら~頷いちゃうんだから……。

 でも……大好きなお嫁さんに期待されちゃあ、作らないわけにはいかないよな。

「……まあ、頑張ってみます」

「ふふ、楽しみだわ」

「あ、あの、真人」

「ん?」

「手作り……出来なかったら無理しなくていいからね」

「大丈夫だよ。味は保証出来ないけど、心を込めて作るからね」

 心配してくれる綾奈の頭を、俺は笑顔で撫でた。

 帰ったら母さんにキッチンを使わせてもらうよう頼んでみるか。

「うん!」

 ホワイトデー当日も、この最高の笑顔を見せてくれるよう、最善を尽くそう!

 それからも楽しい時間は続き、日が暮れだしたタイミングでお開きとなり、電車に乗る茜、健太郎、そして雛先輩を見送ったあと、俺たちも家路についた。

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