第525話 再会と将来の予約
「た、滝乃宮さんって、ここで働いていたんですか!?」
「そうなの。……といってもここで働きはじめたのは今月からだけどね」
滝乃宮さんは、先月まではOLをしていたけど、会社を辞めてここで働きはじめたと話してくれた。
猫カフェでは城下さんが働いているし……世間って狭いな。
「そうだったんですね! 猫カフェでは城下さんがいましたし、知っている人が働いていてびっくりしました」
俺も綾奈と一緒だ。こんな偶然って続くもんなんだな。
「ライチからちょっと離れてるけど、美咲と休憩がかぶったら一緒にランチもしてるのよ」
「やっぱり仲良しさんですね」
「まあね。さすがに綾奈ちゃんと真人君ほどじゃないけどね」
滝乃宮さんはそう言ってにまにまと俺たちを見る。『相変わらずだなぁ』って思ってそうだ。
そして隣の綾奈を見たら、「えへへ~♡」と言ってふにゃっとした笑みを浮かべて俺の腕に抱きついてきた。
その笑顔がめちゃくちゃ可愛く、さらに腕に抱きついてきたことにより、綾奈の胸部の柔らかい感触が伝わってきて、俺の心拍数が一気に上がる。
頭を撫でたいけどここは我慢だ……! 後でいっぱい撫でてイチャイチャしよう。
「た、滝乃宮さん。頼んでいたものを取りに来たんですけど……」
「そうだったわね。裏にあるからちょっと待っててね」
滝乃宮さんは、そう言ってカウンターの奥の部屋に入っていった。
「ねえ真人」
滝乃宮さんが見えなくなると、上機嫌な綾奈が俺に声をかけた。
「どうしたの綾奈?」
「前に言ってた真人の目標、順調に進んでるね」
俺の目標……『出会った人たち全員に、俺たちが一番のおしどり夫婦だって言ってもらうこと』。
綾奈は覚えていてくれてたんだな。
「そうかもだけど、滝乃宮さんって麻里姉ぇのファンだから、あの夫婦が一番って思っていそうだよね」
実際に麻里姉ぇと翔太さんはすごく仲良いし。
「確かにそうかも……お姉ちゃんたちより上って、すごく難しいよね」
「だからこそ超えがいがあるというものだよ。これからも頑張っていこうな」
「うん!」
「おまたせー……って、どうしたの微笑みあって?」
決意をあらたにしているところで、ちょうど滝乃宮さんが戻ってきた。
その手には、透明なナイロンに入れられた、以前サンプルで見せてもらったバルーンブーケと同じものがあり、透明な風船には『雛先輩 卒業おめでとう』の文字がしっかりとプリントされていた。
「ありがとうございます」
「私はほとんど何もしてないけどね」
滝乃宮さんは「あはは~」と笑い、それから金額を言ってきたので、俺はみんなから預かったお金をコイントレーに出した。
「このバルーンブーケは二人で?」
「いえ、俺たちの他に、妹の美奈や友達と一緒に企画したんです」
「そうなんだ。この雛って人はみんなから慕われているんだね」
「はい。私たちがお付き合いをはじめた日からだから、知り合ってまだ半年も経っていませんが、色々と良くしてくれた、大切な先輩です」
俺は綾奈の言葉に頷く。
「喜んでくれるといいね」
「「はい」」
滝乃宮さんは、バルーンブーケを白いレジ袋に入れてくれて俺に手渡してくれて、お店の出口まで見送ってくれた。
「どうもありがとうございました」
「いえいえ。良かったらまた利用してね」
「はい。ぜひ!」
俺と綾奈は滝乃宮さんにお辞儀をして、帰ろうとした時、近くから「ただいま戻りました」と、女性の声が聞こえた。
この声はもしかして……。
そう思って声がした方を振り向くと、はじめてここを訪れた時に接客してくれた、ポニーテールとメガネが似合うお姉さんがいた。
「あ、
「ただいまです滝乃宮さん。あら? あなたたちは……以前来てくれたカップルさんね?」
「こ、こんにちは」
「こんにちは」
いないと思っていたのに、まさかこのタイミングで会うとは思ってなくて、前回の帰り際に美奈に言われたことや、さっき綾奈に言われたことを思い出したら変に意識してしまってちょっとどもってしまった。
というかこの人、清住さんっていうのか。
「滝乃宮さんの知り合いですか?」
「そうなんです。見ての通りとっても仲良しで、高一なんですけど既に婚約しているんですよ」
「え!? 本当ですか!?」
「は、はい」
俺たちは一緒に、左手の薬指にしてある指輪を清住さんに見せた。前回来た時に見られてるかもしれないけど……。
「うわぁ、素敵ですね! そうだ! 二人の結婚式にはぜひうちのバルーンを使って式場を彩りませんか!?」
「「え?」」
「いいアイディアですね! 二人とも、どうかしら?」
マジで? 予想外の展開にすぐに返事が出来なかったけど、でもこんなに素敵なバルーンブーケを作っているんだ。そんな人たちにお願いしたら、俺たちも、そして招待した人たちも楽しんでくれそうだな。
式場のアレンジ……他企業とのコラボが通るかはわからないけど、プランナーの人に掛け合ってみよう。
「そうですね。いつになるかわかりませんが、その時はぜひお願いします」
「私からもお願いします!」
どうやら綾奈も同じ考えだったらしく、俺たちは見つめあって、そして笑った。
「楽しみだね。真人」
「ああ」
本当に、楽しみだ。
俺は数年先の綾奈との結婚式を、その式場を彩る様々なバルーンを想像して、自然と笑みがこぼれた。
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