第523話 ブーケを渡す場所は……

「ねえ真人君」

 駅がだんだんと近づいてきた頃、香織さんが俺を呼んだ。俺は香織さんを見るべく後ろを向いた。

「どうしたの香織さん?」

「卒業式のあと、雛さんにブーケを渡すにしても、どこで渡すの?」

「それなんだけど……」

 普通に考えたら、卒業式が終わってから風見高校でってなるんだけど、じつは少し前に健太郎と一哉にこっそりそれを伝えたら却下された。なので……。

「まだ決まってない」

「え?」

 香織さんだけでなく、他のみんなも驚いている。

 当然の反応だよな。卒業式まで一週間もないんだから。

「風見高校のみんなだけで渡すのは却下されてな……だからその件は健太郎が考えてくれているんだよ」

「私もそれ、考えなかったわけではないけど……やっぱりダメだよね」

 香織さんも考えていたのか。

「うん。やっぱりみんな揃ってから渡したいし、雛先輩もその方が喜んでくれると思うから」

 綾奈たち他校に通っているみんなのことを考えてなかった自分が恥ずかしい。

 千佳さんは、このまま健太郎と結婚すれば、雛先輩は義理の姉になる人だし、茉子も雛先輩とはすごく仲がいいもんな。

 そんなみんながいない場でブーケを渡すのもやっぱりアレだから、出来る限りみんな揃った場で渡したい。

「だからみんな、卒業式のあとって予定は……」

「私とちぃちゃんは雛さんに会いに行こうって思ってたから大丈夫だよ」

「私とマコちゃんも特に予定はない……っていうか雛さんに会うつもりだったし」

「うん」

 ん? つまりそれって……。

「お前たち、もしかして卒業式が終わったら風見高校に来るつもりだったのか?」

「そうだよ」

 即答か。

 俺ももちろんだけど、雛先輩……やっぱりみんなから慕われてるな。

「今更だけど、予定もあのトークで決めてたらよかったね」

「まあ、勉強で疲れてたし、ブーケのことしか頭になかったからな。それにこれに関しては雛先輩の意見も聞かないとだから……」

 俺たちが勝手に予定を立てても、主役である雛先輩が来れないのでは意味がない。

「多分、今夜あたりに健太郎からグループにメッセージがあるかもしれないな」

 きっとこの土日で健太郎が雛先輩に聞いてくれているはずだから、遅くても明日の日曜日には連絡が来るはずだ。

「なるほど。じゃあ清水先輩待ちなんだね」

「そういうこと」

『清水先輩』って単語だけ聞くと、健太郎なのか雛先輩なのか一瞬わからなくなるな。

「だからみんな。この休みのあいだはグループチャットの方を気にしていてほしい」

「わかったよ」

「了解」

「そう言って、お兄ちゃんはお義姉ちゃんとイチャイチャしてメッセージを見てなかった……なんてことはしないでよ」

「……ちゃんと気にしてるから大丈夫だ」

 多分、今夜も勉強が終わったらイチャイチャすると思うが、ちゃんと頭の片隅でメッセージも気にするように心がけるようにするから大丈夫だろ。

 そもそもみんなにお願いした俺がトークを気にしてなかったとかは示しがつかない。

「そ、そうだよ美奈ちゃん!」

「言ってみただけだよ」

 本当かよ……。

 でもまあ、美奈の言った通りにならないためにも、綾奈の家に戻ったら着信音量を上げておこう。

 その夜、健太郎からグループチャットにメッセージが来て、お昼にドゥー・ボヌールに集まって、雛先輩の卒業パーティーを開くこととなった。

 綾奈とイチャイチャしていたけど、音量を上げていたからちゃんと最初からトークに参加することができた。

 その後、翔太さんに確認を取ると、予約を入れてくれた。

そして夜はやっぱり眠くなってしまい、テスト勉強はなし、イチャイチャも適度にして眠りについた。

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