第522話 真人は尻に敷かれる?
お店を出て駅に向けて歩いているのだが、行きと違って綾奈が俺の手をがっちりと繋いで離さない。でも後ろの三人と楽しくおしゃべりをしているから、綾奈は最初から帰りは俺と手を繋いで帰ろうと思っていたのかもな。
「美奈、茉子」
このタイミングで、俺は二人に言おうと思っていたことを言うことにした。タイミングを逃したら言いにくくなるから。
「なに?」
「どうしたの? 真人お兄ちゃん」
「お前たちはお金、大丈夫なのか?」
茉子はあまり無駄遣いをするイメージはないが、美奈はアーケード内にあるゲーセンにちょくちょく行っているみたいだし、もし持ち合わせが不安なら俺が三人分払うことも考えていたのだが……。
「ちゃんと持ってるから!」
「私も。だから心配しないで」
どうやらいらない心配だったみたいだな。
「そっか。……ごめんな」
ちょっと子供扱いしてしまったことに対しても謝罪した。
美奈も茉子も、しっかりしてるもんな。そんなに気にすることもなかったか。
「いいよ別に。私たちを思って言ったんでしょ?」
「そりゃあな」
「ありがとう、真人お兄ちゃん」
「……おう」
「ところで卒業式の前日にまたここまで取りに行くってなったけど、誰が行くの?」
俺と妹たちとの話が終わったタイミングで、今度は香織さんがそう切り出した。
「それは俺が行くよ」
これは昨日から思っていたことだ。言い出しっぺだし。
「でも真人君は今日も来たんだから、受け取りは他の人でもいいんじゃない?」
「でも俺がバルーンブーケを提案したから、ここまで来ることになったわけだし」
もし花束を選んだら、もっと近場で揃えられたんだし、ここは提案者の俺が受け取りまでやるべきだろう。
「それに俺名義で予約入れたから、本人が行かないと」
「代理でもいいと思うけど……山根君とか、清水君とかさ」
「一哉はともかく、健太郎に受け取りをお願いするとその日に雛先輩にバレる恐れがあるな」
「あ、そっか」
これは卒業式当日に、サプライズで雛先輩に渡す計画だ。だから雛先輩の弟である健太郎には取りに行かせるわけにはいかない。
「まあ、お金の徴収は他の人に頼むことにするよ」
そこは一哉あたりに頼んで、俺がそれを受け取るでいいだろう。
「……わかった。なんかごめんね」
「謝らないでいいよ。別にめんどうとか全然思ってないから」
お世話になった雛先輩のためだし、むしろ率先してやる。
「でも、大丈夫かな?」
バルーンブーケの受け取りまでの流れも大体決まったところで、美奈がそんなことを口にした。
何か懸念があるのか?
「どうした美奈?」
「お兄ちゃん、あの店員さんの笑顔に少しドキッとしてたから、一人で行かせるのは……」
「っ!」
「お前何言ってんだよ? 別にどうもしな───」
「私も行く!」
美奈は心配しなくていいことを心配していたので、別にどうもならんだろうと思いながら美奈の心配を否定しようとしたら、綾奈が勢いよく挙手して言った。
「あ、綾奈?」
「私も一緒に行くよ」
すっげえ笑顔で言ってくるな。
「いや、美奈は言ってるだけだからね? 綾奈が心配してるようなことは何も───」
「でも私とちぃちゃんの分のお金も渡さないといけないし、旦那様と少しでも一緒にいたいから、だから私も一緒に行くよ。ね?」
千佳さんの分のお金は綾奈に任せなくても健太郎に頼めばいいしって思ったけど、俺はそれを口にすることが出来なかった。
なんか……綾奈からすごいプレッシャーを感じる。表情はいつもの世界一可愛い笑顔なのに……。
「……はい」
俺は頷くことしか出来なかった。
こうして卒業式前日は、俺と綾奈がブーケを取りに行くことに決定した。
「将来は真人君が綾奈ちゃんの尻に敷かれるんじゃ……」
俺もそのビジョンが一瞬見えたよ香織さん……。
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