第519話 寝不足夫婦
翌日のお昼、俺たち五人は電車でバルーンブーケを取り扱っているお店の最寄り駅までやってきた。この辺りに来るのは綾奈の誕生日以来だな。
それにしても……眠い。
「ふわぁ~……」
「くぁ……」
俺と綾奈は揃って欠伸をした。
「綾奈ちゃんと真人君、眠そうだね。大丈夫?」
「ごめんね香織ちゃん。大丈夫だよ」
「うん」
俺たちがこうして欠伸をしている理由は……まあひとつしかなくて。
「どうせイチャイチャして夜更かししたんでしょ?」
「……当たり」
「はわわ……」
わが妹はさすがだな。
昨夜はあれからしばらくキスをし続けて、ちゃんと寝たのは日付けが変わる直前だった。
それだけ聞くと、今日は休みだからゆっくり寝れると思われるけど、俺と綾奈は今朝も五時に起きてきっちりランニングをこなしていた。
まぶたは重かったし目はシパシパしたし、欠伸もけっこうした。
ランニングから戻って二度寝はしなくて、綾奈とイチャイチャしながらおしゃべりをしていた。二度寝をすると、確実に寝坊する自信があったからな。
自分の家だと多少寝坊しても全然問題ないんだけど、綾奈の家に泊まっているので寝坊なんてもってのほかだ。
朝食を食べたあと、しばらくしてテスト勉強をしたんだけど、これもちゃんとこなすことが出来たのは奇跡に近い。
夜、勉強出来るかな? すぐに寝てしまう自信しかない。
「とりあえず行こうよ。人多いから邪魔になっちゃいそうだし」
今日は土曜日で、駅にいる人もけっこういるし、香織さんの言う通り、早く移動した方がよさそうだ。
「だね。行こう」
俺たちは目的のお店に向かって歩き出した。
歩き始めてから少し経った頃、俺は四人の美少女に向けられる視線が気になっていた。
俺は一番後ろを歩いているのだけど……、駅を出てから、すれ違う男の人たちがちらちらと四人を見ているのだ。
綾奈はもちろん、三人も可愛いから、美少女四人が楽しそうにおしゃべりしながら歩いてるのはやっぱり目立つ。
そして四人を見たあとに、必ずと言っていいほど俺も見られる。きっと、『なんで美少女の中にヤローが混じってんだ!?』みたいに思われているはずだ。
嫉妬や羨望、奴は何者なんだ? 的な視線がチクチクと刺さるが、俺は素知らぬふりをする。
俺がいることで四人を変なやつの魔の手を防いでいるのなら、俺は喜んで盾になる。
お嫁さんも、妹も、兄と慕ってくれている女の子も、クラスメイトも、絶対に守る。
「あ、真人。ライチが見えてきたよ!」
綾奈が言うように、俺たちの前に、以前二人で行った猫カフェ・ライチが見えてきた。
それにしても綾奈、テンションが高いな。
猫が大好きだし、ライチ自体すごくいいお店だったからな。俺もまた機会があれば行きたいと思うほど気に入っている。
「きららちゃんいるかな!?」
そう言ってひとり駆けていく綾奈。
マジできららちゃんがお気に入りだな。一番人気だし、きららちゃんも綾奈を気に入ったみたいだったから、綾奈の気持ちはわかるけどね。
「きららちゃんって確か、一番人気の猫だっけ?」
「うん」
「杏子先輩の歓迎会でも言ってたけど、綾奈さんはその子が本当に好きなんだね」
「実際、一番触れ合えたのもきららちゃんだったしな」
俺たちも歩いてライチのそばまで行くと、ちょうどきららちゃんがキャットタワーの上から窓の外を眺めていた。
「真人! きららちゃんがこっち見てるよ! かわいい~」
綾奈の言うように、きららちゃんは俺の背丈ほどのあるキャットタワーから、じっと俺たちを見ていた。
ひょっとして、俺と綾奈のことを覚えているのかな?
「この子がきららちゃんか。本当に可愛いね」
「一番人気なのも、お義姉ちゃんがここまでテンション高くなるのもわかる気がする」
「触ってみたいなぁ……」
茉子は両手をきららちゃんの方に伸ばしている。猫が好きなんだな。
「あ、城下さん」
五人できららちゃんを見ていたら、城下さんの姿が見えた。今日も頑張ってるんだな。
あ、城下さんも俺たちに気づいて笑顔で手を振ってくれた。
俺と綾奈と美奈は、城下さんに軽く会釈をした。
「え? 三人とも、今の店員さんと知り合いなの?」
「綺麗な人……どこで知り合ったんですか?」
そっか。茉子と香織さんは城下さんを知らないんだったな。
「あの人は城下美咲さんって言って、ドゥー・ボヌールで知り合ったお姉ちゃんのファンの人だよ」
「松木先生のファン!? 男の人ならわかるけど、同性のファンもいるなんて……」
「松木先生……すごい」
綾奈が城下さんを紹介して、香織さんと茉子は麻里姉ぇのファンということに驚いていた。
俺もクリスマスに滝乃宮さんに絡まれた時は驚いたな。あとから『麻里奈様』って言ってたし。
「さあ、きららちゃんを見るのはこれくらいにして、そろそろ行こうよ」
これ以上ガン見してるとさすがのきららちゃんも気分を害してしまいそうだし、何より周りの人から怪しい集団に見間違いされかねないからな。ここいらで今日の目的を果たしに行ったほうがいいだろう。
みんなそれぞれ返事をしてくれて、俺たちはまた歩きだした。
「きららちゃんまたね」
綾奈は最後まできららちゃんを見ていて、笑顔で手を振っていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます