第509話 休憩でイチャイチャ
「そういえば綾奈、いつから俺のこと見てたの?」
休憩中、座ったまま後ろから綾奈を抱きしめながら、俺は思ったことを綾奈に聞いていた。
俺が一度、綾奈の部屋を見渡し、綾奈に触れようと手を伸ばした時にはまだ真剣に勉強に取り組んでいた。なら、俺が勉強を再開してからの五分以内に見続けていたことになる。
些細なことだとは思うけど、やっぱり愛するお嫁さんにいつから見られていたかというのは気になってしまうものなのだ。
「えっとね、なんか視界の端に動くものが見えて、でも気のせいだと思って勉強を続けてたんだけど、やっぱり気になって顔を上げたら、真人が真剣な表情で問題を解いてて、『真人かっこいい』って思って、それで、その……真人から目が離せなくなって」
声にデクレッシェンドがかかり、徐々に弱々しくなる綾奈の声。
今って絶対に照れた顔してるよな!? 見れないのが悔しい。
というか、原因は俺だったか。長時間集中してたから自然とそれも切れたのかと思ったけど違ったみたいだ。
「かっこいいかはさておき、俺が綾奈に手を伸ばしたのは本当だから……勉強の邪魔してごめん」
どんな理由があれ、綾奈の集中力を切ってしまったのは紛れもない俺なので、ここは一言謝らないとと思い謝罪をした。体勢的に綾奈の目を見れないのでそこはご容赦いただきたい。
だけど、そんな俺の謝罪を聞いた綾奈は、ふるふると首を横に振る。綾奈の綺麗な髪が風でふわっと浮き、俺の頬に当たってなんだかくすぐったい。
「真人はかっこいいもん。……そろそろ休憩したいって思ってた時だったから大丈夫だよ。私だって真人の勉強の邪魔しちゃったわけだし」
「いやー、あれはほとんどフリで、本当はもう集中力は切れてたからね」
「そうなの?」
「うん。じゃなかったら綾奈に意地悪なことしないって」
俺はさっきのことを思い出してまた吹き出してしまった。
「むぅ……」
綾奈もまた、さっきの俺のイタズラを思い出したのか、軽くだが、またも頬を膨らませた。顔は見えないけど、その仕草自体が可愛い。
「ごめんって。だから機嫌直して」
本気で怒っているとは思ってないけど、もしかしたらってこともあるので、俺は優しい声音で謝り、空いている右手で綾奈の頭を優しく撫でる。
「……なーんて。そんなことでは怒らないよ」
「知ってた。でもごめんね」
「うん。……えへへ」
「あはは」
和やかなムードになり、それからは無言で俺は綾奈の頭を撫で、綾奈も俺にされるがままになっていた。
俺に撫でられるのが余程気持ちいいのか、綾奈から時折、「ふふっ」と小さい声が聞こえてくる。
綾奈が左手に少し力を入れて握ってくるので、俺も同じように力を入れる。それをお互いリズミカルに繰り返し、それが面白くて二人してまた笑い合う。
綾奈とならどんなことでも楽しいって思えるから不思議だよな。
「……ねえ、真人」
三十秒ほどお互い左手をにぎにぎしあっていると、綾奈がちょっとだけ遠慮気味に俺を呼んだ。
「どうしたの綾奈?」
「……真人の顔が見たいから、身体動かしていい?」
「……うん」
綾奈は一度俺から身体を離し、その身体ごと俺の正面に向け、膝立ちで俺の両肩に手を置いた。
俺は、顔だけ俺の方に向けるんじゃないんだ……なんて思いながら、綾奈のことをじっと見ていた。
これは……元日に一緒に風呂に入った時、湯船の中でイチャついた時と同じ体勢だ。
綾奈の頬は、まるで長風呂でのぼせたかのように赤くなっていて、目もとろんとしている。
「真人……かっこいい」
そう言いながら、綾奈は左手で俺の頬に触れる。綾奈の指と指輪がひんやりとしていて、ちょっとだけ俺の背中がブルッと震える。
「綾奈も可愛いよ」
『かっこいい』にツッコミを入れると、さっきみたいに言ってくると思った俺は、そこにはあえて触れずに綾奈の顔を見ながらいつも思っていることを口にする。
いつの間にか俺の鼓動は早く、大きくなっていた。
「……ちゅう、していい?」
「もちろん」
俺が笑顔でそう言うと、綾奈は唇の両端をつり上げ、ゆっくりと俺に顔を近づけ、そして唇を重ねた。
結局そのまま激しくキスをし続け、当初予定していた休憩時間を大幅にオーバーしてしまったのは言うまでもない。
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