第507話 集中しきれない真人
麻里姉ぇの部屋で頭と心を冷やし、勉強に集中しようと気持ちを切り替えた俺。ただ少々時間がかかってしまって、綾奈の「着替えたよー」と言った声が俺の耳に届いてから約五分、俺は綾奈の部屋に戻ることはなく麻里姉ぇの部屋にいた。
「おまたせ」
落ち着きを取り戻した俺は綾奈の部屋に戻り、綾奈と対面になるように腰を下ろした。
その際に綾奈の履いている水色のショートパンツから伸びている美脚に目が行ってしまい、冷静さをまた失いかけたけど、軽く頭を振って無理やり煩悩を追い出す。
「おかえりなさい。遅かったけど、お姉ちゃんの部屋で何してたの?」
「何もしてないよ。目を瞑って立ってただけ。さ、勉強はじめようよ」
「? うん。わかった」
綾奈は首を傾げていたけど特に何かを聞いてこなかった。
他の人から見たらマジで突っ立っていただけだもんな。
これで本当のことを言ってしまったら、綾奈は照れてしまうかもだし、その可愛すぎる姿を見てしまったらまたイチャイチャしたくなっていたかもしれないから、正直助かった。
「わからないところがあったら教えてね」
「うん。任せて!」
綾奈の自信に満ちた笑顔を見て、明奈さんが持ってきてくれたココアを一口飲み、俺はシャーペンを持ち、教科書に視線を落とした。
とにかく集中だ……。
テスト勉強が始まって何分経過したのだろう?
スタートしてからはお互い喋ったりせず、ノートにシャーペンを走らせる音と教科書をめくる音、そしてココアを飲む音と座る体勢を変える時の衣擦れの音……その四種類の音だけしか聞こえていない。
綾奈へ質問もしていない。聞かないとわからないところがけっこうあると思っていたんだけど、少し時間をかけたら解ける問題ばかりだ。
前回のテストでも勉強をめちゃくちゃ頑張ったから、理解力が自然と上がったのかもしれない。
ちょっと集中力が途切れた俺は、視線をノートから綾奈のベッドへと移す。
ピンクの掛け布団と枕、そして枕のそばにいるまぁくんとあーちゃんを見る。今日も仲良く隣同士で座っている。仲睦まじいな。
そして綾奈を見る。真剣にノートにシャーペンを走らせていて、俺が見ているのに気づいていない。
普段は俺にめちゃくちゃ可愛い笑顔を見せてくれるお嫁さんだけど、この真剣な顔もまたいい……。
俺は視線を、綾奈の顔からノートに添えてある左手に移す。
綾奈の綺麗な手と、薬指にはめられているピンクゴールドの指輪をじっと見る。
指輪を毎日してくれている嬉しさと、白くてすべすべな手に触れたい衝動に駆られて、俺は自身の左手を綾奈の左手に伸ばし───
「……っ」
綾奈との距離が半分になったところで、俺は左手を引っ込めた。
バカか俺は!? 綾奈は真面目にテスト勉強をしてるんだ。それを邪魔してどうするんだ!
綾奈に触れたい、イチャイチャしたいって気持ちは最低でも休憩する時までは持たないようにしないと。
はぁ……ダメだな。もっとしっかりしないと。
俺は霧散していった集中力を再び集結させ、テスト勉強を再開した。
この集中力があと何分続くことやら……。
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