第501話 最後にもらうチョコは……

「ただいまー」

 時刻は夜の九時前、なんとか言った時間までに戻ることができた。

 リビングからテレビの音が聞こえるので、多分父さんか母さんがいるんだろう。

 スニーカーからスリッパに履き替えていると、二階から美奈が降りてきた。

「おかえり……お兄ちゃん」

「ただいま。美奈」

 珍しいな。美奈がわざわざ降りて出迎えてくれるなんて。

 美奈はどこか落ち着かない様子でそわそわし、手を後ろで組んでいた。

「どうしたんだ?」

「えっと、その……」

 ここまで歯切れが悪い美奈もマジで珍しい。今朝から様子がおかしかったけど、マジでどうしたんだ?

「あら、おかえり真人」

 母さんがリビングから出てきた。父さんは風呂か?

「ただいま母さん」

 母さんはそれだけ言うと、美奈の隣に移動し、美奈の肩に手を置いた。

「ほら、美奈」

「う、うん……」

「?」

 一体なんなんだ?

「あ、あの! お兄ちゃん!」

「ど、どうした?」

 急に大声を出したからびっくりした。

「こ、これ……!」

 美奈が意を決したように、ずっと後ろで組んでいた両手を俺の前に出した。

 美奈が手に持っていたのは透明なビニール袋……そしてその中には色とりどりの楕円形のアルミ紙で……そのアルミ紙の中身は容易に想像できた。

「美奈……お前、それ……」

「その……うぅ~……!」

 何かを言おうとしているけどなかなか言葉にでないみたいだ。ここは下手に急かすのではなく、美奈が言葉にするのをただ待つほうがいいよな。

「ほら、美奈。頑張って」

「う、うん」

 母さんの優しいエールに、美奈は一度深呼吸をして、再び俺をまっすぐ見る。その目にはさっきよりも力があるように思えた。

「お、お兄ちゃん!」

「うん」

「こ、これは……ずっと私に優しくしてくれたお兄ちゃんへの感謝と、それから……お兄ちゃんを悪く言ってた頃の、今さらだけど『ごめんなさい』って意味を込めたチョコなの。……受け取ってほしい」

「……!」

 美奈の心がこもったチョコを見て、俺は当時の……美奈にディスられていた頃のことを思い出していた……。

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