第494話 気になるのは千佳のこと

「ところで綾奈。千佳さんってやっぱり、麻里姉ぇに怒られてた?」

 綾奈の家に向かっている道中、俺は今日一日気になって仕方がなかったことを綾奈に聞いた。

 普段は優しく理不尽に怒らない麻里姉ぇだけど、こと部活に関したら妥協がない。

 去年の高崎高校との合同練習で、一度だけ俺たち風見高校の合唱部員も麻里姉ぇの指導を受けたけど、その一回だけでそれを理解してしまうほどの熱量があった。

 全国常連の部を率いるってのは、それだけ大変なんだろうな……。

 だから部活で手を抜かない麻里姉ぇが千佳さんを叱責してしまったのではないかと思い気が気ではなかった。千佳さんには『気にするな』みたいなことを言われているけど、それは出来なかった。

「私もわかんない。休憩中にお姉ちゃんがちぃちゃんを音楽準備室に連れていっていたから、何か言われたんだろうけど、帰ってきたちぃちゃんの顔はいつも通りだったから……」

「そうなんだ……」

 注意だけですんだのか、それとも怒られたけど千佳さんが顔に出さなかっただけか……。いずれにしても真相を知ろうとするなら千佳さんか麻里姉ぇに聞くしかないか。

「ごめんね真人……」

「綾奈が謝ることじゃないって。だからしゅんとしないでよ」

 俺は綾奈の手を離して綾奈の頭を優しく撫でた。

 俺が撫でたことによって、綾奈はいつものふにゃっとした笑みを見せてくれて、家に着く頃にはいつもの調子に戻っていた。


 俺たちは揃って「ただいま」と言うと、その声を聞いた明奈さんがリビングから出てきた。エプロンをしていないということは、既に夕食の準備が出来ているのかな?

「おかえりなさい二人とも。寒かったでしょ? 今日はおでんにしたから、早く食べて温まってね。あ、綾奈は先に着替えてきなさいね」

「うん。お母さん」

「ありがとうございます明奈さん」

 俺たちがスリッパに履き替えたのを見て、明奈さんはリビングに入り、俺と綾奈は手を洗うために洗面所へ。もちろんその途中で、既にリビングにいた弘樹さんにも挨拶をした。

 そして手洗いとうがいを済ませ、自室に行く綾奈と軽くキスをして、俺はリビングに入った。

 テーブルの真ん中には大きな鍋があり、その中にはおでんの具材がいっぱいに入れられていた。匂いで食欲をそそられる。

 もちろんおでんの他にも料理があり、野菜の盛り合わせと鮭の切り身が並べられていた。

「真人君。遠慮しないでいっぱい食べてくれよ」

「そうよー。いっぱい入れすぎてしまったから、じゃんじゃん食べてちょうだいね」

「は、はい! ありがとうございます弘樹さん、明奈さん」

 そんなことを言われたら食べないのが失礼になってしまうので、お二人の言葉通り、遠慮なく味わおう。

 俺が椅子に座ったタイミングで、部屋着に着替えた綾奈がリビングに入ってきた。

 ピンクのモコモコした部屋着姿の綾奈は反則的に可愛かった。

 そしてそんなモコモコ装備の綾奈は、俺のお茶碗にご飯が盛られてないのを見ると、すぐさま俺のお茶碗を取り、炊飯器に向かった。

「はい真人」

 お茶碗にご飯をよそって戻ってきた綾奈。そのお茶碗にはこんもりと白米が乗せられていた。普段の量より少し多い気もするが、お腹すいてるから平気だろう。

「いつもありがとう綾奈」

「えへへ~、私がしたくてやってることだからいいよ」

 ふにゃっとした笑みを見せてくれた綾奈は、今度は自分のお茶碗を手に取り、再度炊飯器に向かった。

 そして綾奈が席に着いたところで、二回目となる西蓮寺家での夕食がスタートした。

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