第492話 一緒に家に帰る前にちょっと寄り道

 美奈の心配をしながら俺は駅に到着。うん。綾奈が乗ってるであろう電車がもうまもなくこの駅に到着する頃合いだ。

 風が吹いていて寒いので、俺は構内に入る。

 まだ電車は到着してないから、またコンビニでココアでも買っておくか。

 ココアを購入し、コンビニを出ると、ちょうど電車が到着していた。ナイスタイミングだ。

 電車のドアが開き、乗客が降りてくる。えーっと、綾奈綾奈は……あ、いた!

「綾奈!」

 夕方の茉子みたいに、俺は改札を抜けたお嫁さんに声をかけると、俺に気づいた綾奈の顔がぱあっと明るくなり、小走りで向かってきた。

「真人!」

 そして俺に抱きついてくる綾奈。うん。いつも通りだ。

「綾奈。部活お疲れ様」

「えへへ~、ありがとう真人」

 綾奈はめちゃくちゃ嬉しいみたいで、俺の胸に自分の頬を猫のように擦り付けてくる。これも綾奈のよくやる愛情表現なんだけど、さすがに周囲の人の視線がグサグサと刺さる。

「綾奈。お腹すいたでしょ? 明奈さんたちも待ってるから早く家に帰ろう」

 お腹がすいてるのは本当だ。久しぶりの明奈さんの手料理だからすごく楽しみなんだ。

 それを綾奈に言うと、綾奈は明奈さんに対抗意識を芽生えさせてしまう可能性があるから言わないけどな。

「うん。……ねえ真人」

「どうしたの綾奈?」

 綾奈を見るとちょいちょいと手招きをしているので、すぐに『耳貸して』と言っているとわかった俺は、かがんで綾奈の顔に耳を近づける。

 綾奈の可愛い声で囁いてくれる……文字通り耳が幸せになる行為だ。

「お夕飯食べたら……いっぱい甘えさせてね♡」

「っ! ……~~~~~!」

 なんとなく、本当になんとなーくだけど、綾奈の言いそうなことが予想出来て、実際予想的中したんだけど、予想していたからといって照れないわけではない! むしろわかっていたからこそ、その言葉を聞けてテンションがおかしな上がり方をしている……!

「も、もちろんだよ。さ、行こう綾奈」

「はーい。えへへ、真人かわいい!」

 なんとか平静を装おうとしたけど、やっぱり無理で顔がニヤけたままでいたので『かわいい』をいただいてしまった。

 この一分弱のやり取りで既に幸せを感じながら、俺は綾奈にココアを渡して手を繋いで西蓮寺家へと向けて歩き出した。お嫁さんの満面の笑みでの「ありがとう」はやっぱり最高だな。


 綾奈の家に向かう前に、俺たちはまずドゥー・ボヌールへ向かっていた。

 理由は綾奈が翔太さんと拓斗さんにバレンタインのチョコを渡すからだ。

 確かに今日渡すならこのタイミングしかないよなって思い、俺は綾奈のお願いを快諾したんだけど、そのあとなぜか、綾奈は謝罪の言葉を重ねてきた。

 謝るところなんてあったかな? 自分の都合で寄り道するから、夕食の時間がその分遅くなってしまうから……?

 俺は全然気にしないし、綾奈と食べるためだったら何時間でも待つつもりだからいいけど……ん~この謝罪の意味が読めん。

 まあ、気にしてても仕方ないし、今はドゥー・ボヌールに向かおう。

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