第490話 妹分からのチョコレート
冗談なのか本気なのか、『杏子先輩と清水の姉ちゃんのチョコをよこせ!』とクラスメイトの何人かから言われたけど、死守して自宅の最寄り駅まで戻ってきた。
雛先輩と杏子姉ぇが俺のために……杏子姉ぇはどうかはわからないけど、とにかく貰ったチョコだ。渡してたまるか。
とりあえずこのチョコを家に持って帰って保管しなければ……さすがに一日で全部は食べれないから、日を分けてゆっくりと食べていこう。
しかし、今の時点で貰ったチョコの数は五個か。去年の一個からずいぶんと増えたもんだ。
去年までの俺だったら、学校一の美少女の綾奈と婚約していることもそうだけど、このチョコの数も信じられないだろうな。
さて、日が傾いているとはいえ、綾奈の部活が終わるまでまだ時間があるし、帰って宿題でも片付けようかな。
そう思って歩き出したら───
「真人お兄ちゃん!」
近くから俺を呼ぶ声がして歩みが止まった。
俺をそんな風に呼ぶのは一人しかいない。
俺は辺りをキョロキョロと見渡すと、駅の出入り口の傍に、制服姿の茉子がいた。
茉子は笑顔で手を振っていて、大声を出したからか、通行人が茉子を見て通り過ぎている。
「茉子!」
俺は小走りで茉子の元へ向かった。
「おかえりなさい。真人お兄ちゃん」
授業が終わって帰ってきた俺に労いの言葉をかけてくれる茉子。俺の妹分は良い子すぎるな。
「ただいま茉子。もしかして、ずっと待っててくれたのか?」
「うん。……って言っても、そんなに長い時間は待ってないよ。真人お兄ちゃんにこれを渡すタイミングは今しかなかったから、だから見つけられてよかったー」
茉子はそう言うと、持っていた紙袋を胸の高さまで上げて俺に見せてきた。
それは間違いなくチョコで、それを見た俺は、杏子姉ぇの歓迎会の時に、茉子と杏子姉ぇの耳打ちでの会話を思い出していた。
『じゃあじゃあ、マサにあげるバレンタインのチョコはやっぱり本命なの!?』
『えっと……な、内緒です』
『マーちゃんそれは『本命チョコをあげる』って言ってるようなものだよ~』
『な、内緒ったら内緒です』
だからなんだという話なんだが、思い出してしまったものは仕方がない。
本命だろうが義理だろうが、茉子が俺のために作ってくれたチョコレート……心が込められているのは変わらないのだから、俺はそれをめちゃくちゃ味わって食べるだけだ。
「ありがとう茉子。てか待ってるなら連絡してくれれば、こっちに戻ってくる時間も伝えれたのに……寒かったろ?」
茉子の家は駅からそんなに離れていないから、もしこのことを連絡してくれたら茉子がこの寒空の下で待つこともなかったろうに……。
「待ってる時間も楽しかったから、気にしないでよ真人お兄ちゃん」
「……っ」
この子は本当に、健気で良い子すぎる! 俺の自慢の妹分だ。
「本当にありがとうな茉子。このチョコレート、ちゃんと味わって食べるから」
「うん!」
俺は茉子からチョコレートの入った袋を受け取った。
これで茉子の用事は終わったけど、ここで俺を待っててくれた茉子をこのまま一人で帰らせるわけにはいかない。たとえ近くだとしても、ちゃんと送っていかないとな。
「もう帰るだろ? 送っていくよ」
「え!? いいよ近くだし……」
「俺を待っててくれた妹分を一人で帰らせたくないんだよ。ほら、行こう茉子」
「う、うん。……ありがとう真人お兄ちゃん」
「俺のセリフだよ。ありがとうな。茉子」
俺が歩き出すと、茉子も遅れて歩き出し、俺の横に並んだ。
そうして茉子を送り届けた俺は、その足で自宅へと向かうのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます