第487話 昨夜の顛末を聞いて

 いつもの待ち合わせ場所のT字路に行くと、綾奈と千佳さんは既に到着していた。いつも俺より早いんだよなこの二人は。

「おはよう綾奈、千佳さん」

「あ、おはよう真人!」

「はよ。真人」

 綾奈はいつものように元気に、そして千佳さんはちょっと照れくさそうに挨拶をしてくれた。綾奈とは本日二回目の朝の挨拶だ。一緒に走り出してからは平日は毎日二回挨拶してるけど。

「とりあえず行こうか」

「うん!」

「うん」

 昨日、あれからどうなったのか気になるけど、とりあえず歩きながら聞くことにしないと遅刻してしまうからな。

 俺は綾奈と手を繋いで、三人でいつもの通学路を歩き出した。


「ねえ千佳さん。昨日あれからどうなったの?」

 歩き出してから一分ほどで、俺は聞きたくてたまらなかったことを聞いた。最悪な展開にはなってないのは千佳さんの空気から見て取れるけど、やっぱり顛末は聞きたいからな。

「私も知りたい。ちぃちゃん、聞かせて」

「あれ? 綾奈は俺を待ってるあいだに聞いてなかったの?」

 てっきりもう聞いたもんだと思ってたけど……。

「うん。『真人が来たら話すよ』って言ってたから、それ以上は聞かなかったの」

「なるほどな」

 無理に聞いたら話したくなくなるもんな。それに綾奈はそんなことを強要するような性格じゃないし。

 俺と綾奈は頷きあって、千佳さんを見る。

 千佳さんはやっぱりどこか照れたような表情をしている。

「実は───」

 そう前置きをして、千佳さんは俺と一哉が帰ったあとのことを話しはじめた。

 不機嫌そうにしていた千佳さんに健太郎が謝ってきたこと。だけどその謝罪が何に対したなのかを聞いた千佳さんが怒って健太郎の頬を思い切りビンタしたこと。そしてこれからはなにかあれば真っ先にお互いに知らせることを約束したことを……。

 というか、マジでビンタしてんじゃん。健太郎大丈夫だったかな?

 千佳さんの本気のビンタを想像してしまって、俺の頬も痛くなってきた。

「ちぃちゃんのビンタ、本当に痛いからね」

「ご、ごめんって綾奈……」

「ふふ、冗談だよ」

 綾奈は千佳さんにビンタされたことあるのか。一体どこで?

「と、とにかく……あたしと健太郎はこれからも付き合っていくからさ。だからもうこのことでは泣かないでよ真人」

「ち、千佳さん!」

 俺が泣いたこと、昨日綾奈に言ってなかったのに……あっさりと言われてしまった。

「え!? 真人、泣いちゃったの?」

 こうなってしまうと嘘ついても無駄だし余計にカッコ悪くなってしまうから正直に言うか。

「う、うん。もし万が一健太郎と千佳さんが別れてしまったらと思うと……ね」

「そう、なんだ。…………うん。私も嫌かも」

「も、もう! 大丈夫だって。健太郎とはずっと一緒にいるからさ! 真人と一哉には、マジで感謝してるんだからね……ありがとう」

「「……」」

 突然しおらしくなったと思ったら、健太郎との結婚宣言と改めてのお礼を聞き、俺だけでなく綾奈もフリーズしている。

「……ちぃちゃんかわいい」

「あ、綾奈!?」

 うん。俺も可愛いって思いました。

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